作成日
:2018.09.07
2022.01.27 17:48
米国金融規制当局は、金融機関に高リスクの自己勘定取引(銀行自らの資金でトレードすること)を制限するボルカールールを緩和する修正案について、一般に意見を求めるパブリックコメントを行っているが、募集期日を9月17日から10月17日へと1ヶ月間延長することを発表した。
ボルカールールとは、米連邦準備理事会の(Federal Reserve Board)【以下、FRBと称す】議長であったポール・ボルカー氏が提唱した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の中核となる金融規制策のことで、預金保険などの政府支援を受ける金融機関が、預金者のお金(自己勘定)をリスクの高い投資へ投じることを制限したり、ヘッジファンド等へ出資することを禁止するものである。ボルカールールは2010年に成立しているが、2007年から2009年の間に世界経済を大混乱の渦に巻き込んだリーマンショック後、金融危機再発を防ぐことを目的に制定されている。
しかしながら、ボルカールールはとても複雑で分かりにくい上、銀行は顧客との取引で必要となるはずの売買が規制されるため、銀行の主な役目である流動性供給を適切に行えなくなり、業界からは多数の不満が噴出していた。そこで、米国議会は今年5月にドットフランク法の一部を見直す緩和法案を可決・成立させており、ボルカールールを共管する5つの当局のうち、FRBが主導して、複雑なルールを一部緩和して、分かりやすいものへ見直しを行う運びとなった。そして、このボルカールール修正案に関しては、広く一般から意見を募ったうえで、最終決定をすることとなっている。
ボルカールール修正案を提案した5つの当局とは、FRBのほか、米連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation, FDIC)、米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission, SEC)、通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency, OCC)、商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission, CFTC)である。2013年にボルカールールが公表された際にはすべての機関が承認を行っており、規則変更には5当局の足並みが揃う必要がある。
なお、修正案の主なポイントは、銀行が保有する期間が60日未満の資産に関しては、反証しない限り自己勘定取引とみなす規定の撤廃である。ボルカールールでは、金融危機の引き金となり得るような短期間でのデリバティブなど、リスクの高い金融商品の売買を制限しているが、顧客との取引上必要な売買であったとしても、銀行側は基準に抵触していないことを立証する必要があるため、膨大な事務負担となっていた。
なお、今年11月に中間選挙を控えるトランプ大統領は、金融規制の緩和を目指しており、オバマ前政権下に生まれたドットフランク法の撤廃を選挙キャンペーンの1つの焦点としている。ただし、米国議会がドットフランク法の一部を見直す緩和法案を可決したものの、金融業界が反対してきた多くのルールが残されるほか、具体的な撤廃時期に関しても依然不透明なままである。そこで、是が非でも自身の功績を訴えたいトランプ大統領にとって、今となっては常套手段となっている当局者のすげ替えを行えば、ルールを無視して多くの修正を行わせることもできるだろう。事実、トランプ大統領は、業界に批判的であった銀行監督責任者のダン・タルーロ氏を更迭し、ランダル・クロースルズ氏を指名している
。今後は、トランプ大統領、金融規制当局それぞれの一挙手一投足に注目が集まる。release date 2018.9.7
ボルカールールとは、米国の金融機関を安定させる目的で制定された規制であり、資産効率の向上を目的とした自己勘定によるデリバティブや商品先物の取引や、高リスクな金融商品(未公開株ファンド、ヘッジファンドなど)の購入や売却などを禁止した規制である。しかし、顧客のリスク回避を目的としたヘッジ取引やマーケットメークなどは規制の対象外となるなど、曖昧かつ広範囲なルールとなっており、規制が適用される取引であるかの判断が非常に難しく、完全な遵守は不可能だといわれている。金融機関からは規制の明確化を望む声が上がっており、このような状況を受けて、米国議会は、分かりやすいルールへと修正する法案を成立させた。改正により、金融機関の業務負担は軽減されるのか、今後の変更の動きを見守っていきたい。
作成日
:2018.09.07
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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