作成日
:2023.06.13
2023.09.09 04:00
大手取引所Binance(バイナンス)は、米証券取引委員会(SEC)に複数の容疑で告発されました。BinanceはSECに反論しており、抗戦の構えです。Binanceは安全だといえるでしょうか。
2023年6月5日、米証券取引委員会(SEC)はBinanceを提訴しました。訴状によると、Binance、CEOのチャンポン・ジャオ氏、Binance.USなどが13件の不正に関与したとされています。
SECは、株式など証券を監督する政府機関です。多くの仮想通貨を証券とみなしており、取引所や関連企業を取り締まっています。これを受けて、仮想通貨価格が下落するなど動揺しています。
Binanceは世界中で事業展開し、Binance.USは米国内でサービスを提供しています。
訴状によると、ジャオ氏はBinance.USなどの顧客資産を関連企業に送金し、顧客資産を流用したとされています。
また、Binanceは会社資産と顧客資産を混同し、重大なコンプライアンス違反を犯したと報告されています。
顧客資産の流用に際して、ジャオ氏が所有する複数の企業が関与したとされており、Binance.USとBinanceの顧客資産を送受金していたとされています。その他にも、複数の会社が不正に関与したとされています。
当記事執筆時点(2023年6月13日)で、SECの主張の真偽は不明です。しかし、Binance関係者のリーク情報がロイターで報道され、その内容はSECの主張に沿うものになっています。
情報をリークしたのは3名で、Binanceの内部事情をよく知る人物とされています。2020年から2021年にかけて、Binanceは会社資産と顧客資産を分別管理していなかったとしています。
また、ほぼ毎日不正が行われており、米国にあるシルバーゲート銀行の口座で数十億ドル規模の顧客資産が流用されていたとの証言もあります。
その他、SECは以下の問題点などを指摘しています。
SECによると、ジャオ氏が所有する会社が米国内で未登録で営業活動しており、本来ならば登録する必要がありました。
SECの主張によると、BinanceはBNBやBUSDなどを無許可で販売したほか、Simple Earnなどの運用サービスを許可なく提供しました。また、Binace.usのステーキングプログラムも違法であるとしています。
ステーキングとはPoS(プルーフ・オブ・ステーク)の仮想通貨で採用される仕組みで、ブロックチェーンの維持に貢献する対価として報酬を得ることを指します。また、仮想通貨を貸し出して報酬を得られるサービスをステーキングと呼ぶこともあります。
米国内のユーザーはBinance.comを利用できません。その代わりにBinance.USを利用できますが、一部の大口顧客はBinance.comへのアクセスが認められてきたとされています。
Binance.USには市場操作などの不正防止システムがあります。しかし実際には、ジャオ氏所有会社によるウォッシュトレードが行われており、取引規制について顧客に誤認させたとしています。
ウォッシュトレードは、市場操作を目的とした取引です。売り手と買い手が同一人物だったり、または売り手と買い手が共謀したりして売買し、取引量を実態より多く見せかけることができます。
SECは、Binance.USの顧客資産を保護するために、同社および関連会社の資産凍結を裁判所に求めています。この資産凍結にBinance.comは含まれません。
SECの訴えに対して、Binanceは顧客資産の安全性を強調しています。また、SECの規制は不明瞭であり、一方的に問題を悪化させていると批判しています。
BinanceはSECの調査に協力するとしたものの、徹底的に抗戦する意思を示しています。
SECの告発を受け、Binance.USは以下の対応を取っています。
Binance.USは、早ければ2023年6月13日から米ドルの入出金を停止すると発表しました。それに伴って、同日までの資金引き出しを推奨しています。
2023年6月15日以降、Binance.USの口座内の米ドルは、ステーブルコインに交換される可能性があります。
米ドルでの入出金ができなくなることに伴い、米ドルを使った仮想通貨の売買ができなくなります。仮想通貨同士の売買は引き続き可能です。
OTCポータルのサービスも停止します。OTC取引はBinance.USと顧客の間で行う取引で、店頭取引とも呼ばれます。なお、これは永続的な終了ではなく、再開する可能性があります。
SECはBinance.USを主体として提訴しています。しかし、Binanceのグローバルサービスにも、少なからず影響が出ています。
SECがBinance.USを提訴して以降、Binanceユーザーは資産を引き出しています。Coindeskによると、2023年6月5日にBinanceから5億ドル以上の資産が流出した模様です。
この騒動の中、Binanceの取引所トークンBNBの価格が下落しています。
取引所トークンとは、各取引所が発行する独自仮想通貨です。保有者には取引手数料の割引などの特典が付与されます。BNBは最も時価総額が高い取引所トークンです。
BNB価格は、2023年6月5日を境に急落しています。SECの告発が報道される前は、43,000円付近で推移していましたが、当記事執筆時点(2023年6月13日)では、32,000円前後まで下げています。
画像引用:CoinMarketCap
SECはBinanceを提訴する前から仮想通貨に対して厳しく臨んでおり、これに対して米国内から様々な反応があります。
全米商工会議所は世界最大の経済団体であり、SECの強権的な動きに反発しています。SECと対立しているのはBinanceだけでなく、大手取引所Coinbaseも同様です。全米商工会議所はCoinbaseを全面的に支持しており、SECを厳しく非難しています。
また、規制が不明瞭であり明確にすべきだというCoinbaseの主張も支持し、SECに対して速やかに回答するよう求めています。これに対し、SECは法規制は既に明確だとしています。
米連邦議会では、仮想通貨法制を整備しようとする動きが出ています。この動きは超党派によるもので、仮想通貨の定義を明確にし、特定の仮想通貨が証券に該当するかどうかという問題を終わらせると期待されています。
また、SECによるBinanceとCoinbaseの提訴後、SEC委員長を解任しようとする動きも起きています。連邦議会下院議員がSEC委員長の解任法案を提出済みであり、この法案の扱いによっては今後のSECの動きに影響が出るかもしれません。
BinanceはSECによる提訴後もサービスを継続しており、仮想通貨の入出金も通常通りです。しかし、様々なリスクを抱えています。
2023年3月末、米商品先物取引委員会(CFTC)は、Binanceおよびその関連会社、そしてCEOのジャオ氏を告訴しました。
米商品先物取引委員会は、米国内で先物取引やオプション取引などを規制する政府機関です。SECと共に、仮想通貨市場に対する監視の目を強めています。
CFTCは、Binanceが故意に商品取引所法に違反したとしています。Binanceは、米国内のユーザーにデリバティブ商品を提供したにもかかわらず、国内法を回避して不当に利益を得ていた可能性があります。
BUSDはBinanceの独自ステーブルコインであり、米ドルと1対1の比率で価値が担保されています。
2023年1月、BUSDの価値を裏付ける準備金が不十分だと報道されました。これに対してBinanceは、タイミングの不一致であり準備金は不足していないとしています。
2022年、大手取引所FTXが経営破綻しました。FTXは顧客資産を分別管理せず、無理な経営をしていました。
一方、BinanceはPoR(プルーフ・オブ・リザーブ)を公開しています。その中で、顧客資産が100%以上の準備金で裏付けられていることが示されています。
PoRは、英語のProof of Reserveの頭文字を取った略称で、日本語で「準備金の証明」と訳されます。取引所が十分な準備金を保有していることを証明するために利用されます。具体的には、取引所が第三者の監査機関に調査を依頼し、監査結果を公開します。
しかし、SECの指摘が本当であれば、顧客資産がリスクに晒されている可能性があります。また、資産凍結が実施されればBinance.usの営業継続が難しくなり、Binanceにも影響するかもしれません。
Binanceを取り巻く状況は不透明で、今後を予想するのは簡単ではありません。Binanceは2023年11月末に日本居住者向けのサービスを停止します。早めに資金を避難させるのが良いかもしれません。
作成日
:2023.06.13
最終更新
:2023.09.09
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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