作成日
:2022.11.01
2023.03.16 15:30
仮想通貨(暗号資産)市場では、日進月歩で技術が進化しています。最近では、トークン規格も多様化しており、セミファンジブルトークン(Semi-Fungible Token、SFT)と呼ばれる新たな仮想通貨も登場しています。
セミファンジブルトークンは、ノンファンジブルトークン(Non-Fungible Token、NFT)とファンジブルトークン(Fungible Token、FT)の特性を持ち合わせた仮想通貨です。当記事では、セミファンジブルトークンの概要を説明した上で、その特徴や将来的な利用例などを解説していきます。
セミファンジブルトークンは、通常の仮想通貨とNFTの両方の特徴を持つ仮想通貨です。場合によっては、ハイブリッドトークンと呼ばれることもあります。
主にイーサリアム(ETH)上で、ERC-1155やERC-3525というトークン規格で発行可能です。ERC-3525は2022年9月に採用されたばかりの新しいトークン規格で、より柔軟性の高い機能を備えています。既に一部のゲームは、セミファンジブルトークンとしてゲームアイテムを発行しており、NFTマーケットプレイスで販売しています。
下の画像は、NFTマーケットプレイス「Magic Eden」からの引用で、SFTが販売されていることが分かります。
画像引用:Magic Eden
セミファンジブルトークンを理解するためには、仮想通貨の代替性を理解する必要があります。仮想通貨の分類別に、それぞれ代替性に焦点を当てながら説明していきます。
ファンジブルトークンとは、ビットコインやイーサリアムなど従来の仮想通貨を指します。日本語で代替性トークンと訳され、同一の仮想通貨ならばどれでも全く同じで等価です。
例えば、500円玉はどれも同じ見た目で同じ価値を持っています。交換しても価値等に変化はありません。ビットコインなどのファンジブルトークンも同様で、自分が持っている1BTCと他人が持っている1BTCは全く同じで区別できません。
ノンファンジブルトークンは一般的にNFTと呼ばれ、ファンジブルトークンとは真逆の存在です。発行される全ての仮想通貨が、代替不可能で唯一無二の存在となっています。主にデジタルアートやPlay to Earnのブロックチェーンゲームなどに利用されています。
Play to Earnとは、遊んでお金を稼ぐことを指します。すなわち、ブロックチェーンゲームで遊ぶと、NFTや独自仮想通貨などの報酬を得られます。Play to Earnから派生したMove to Earn(運動して稼ぐ)なども、流行しています。
デジタルアートやPlay to Earnのプロジェクトでは、見た目が似たような、または、全く同じものがNFTとして発行されることがあります。そして、それぞれ全く別のものとして扱われます。
例えば、日本最大級のブロックチェーンゲーム「クリプトスペルズ」では、ゲームプレイに必要なカードがNFTとして発行されています。下の画像内、強調したカードを比較しますと、絵もレベルも全く同じです。しかし、前述したように、明確に別物として扱われています。
画像引用:Crypto Spells
セミファンジブルトークンは、トークン規格(ERC-1155とERC-3525)によって若干の違いがあるものの、いずれもひとつのSFTに複数のデータを紐付けることができます。
NFTは、画像等のデータと1対1の関係で紐付いています。一方、セミファンジブルトークンは、1つのデータに複数のデータが紐付いている関係を作れます。
そして、SFTとして扱われる間、外部データはファンジブルトークンと同様に扱われます。すなわち、個々のデータは交換可能です。しかし、特定の条件が満たされるとNFTとして扱われます。
この特徴により、ファンジブルトークンとノンファンジブルトークンの中間的な位置にあるといわれます。
セミファンジブルトークンはどのような特徴を持っているでしょうか。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
ビットコインは、1BTCや2BTCのように数えることができます。そして、NFTはそれぞれが代替不可能な仮想通貨であり、数量は常に1です。ビットコインのように1未満の数量を取引したり、複数をまとめて取引したりできません。
一方、ERC-3525に準拠するセミファンジブルトークンは、ビットコインのように数えることができます。すなわち、あるSFTにデータを追加して数量を増やしたり、データを抜いて数量を減らしたりできます。
セミファンジブルトークンは、どのような条件が満たされたらNFTとして取り扱うのか、プログラムで指定することができます。
ビットコインなどの一般的な仮想通貨の場合、誤って間違ったアドレスに送信してしまうと、もう取り戻すことはできません。誤送金先のウォレットの所有者が善人で、わざわざ返送してくれることに期待するしかありません。
しかし、SFTの場合、誤送金しても取り戻すことができます。仮想通貨送金の際には送金先アドレスのチェックが大変重要で、これがユーザーに大きなストレスを強いてきました。SFTが普及すれば、このストレスを大幅に緩和できると予想できます。
複数のNFTを他のウォレットに送る場合、1つずつ送信する必要があります。すなわち、1つ送るたびに手数料が必要になります。しかし、セミファンジブルトークンは1つにまとめて送信できますので、手数料支払いは1回で済みます。
セミファンジブルトークンは、以下のような分野で期待されています。既に活用されているケースもあります。
Play to Earnのブロックチェーンゲームでは、アバター(ゲーム内のキャラクター)や土地、ゲーム内アイテムなどがNFTとして発行されています。そしてこれらのNFTの中には、全く同じ機能でもシリアル番号が違うだけで別扱いされているものが多く存在します。
これまでのトークン規格であれば、ゲーム内のアバターや土地、ゲーム内アイテムの供給数だけ独立したNFTを発行する必要がありましたが、セミファンジブルトークンを採用すると、それを簡素化することが可能となります。
下の画像は、同一のアイテムをどのように表示するかという比較です。NFTの場合、見た目も機能も同じでも、それぞれ別です。すなわち、同じ絵を6つ並べる必要があります。しかし、SFTならば「×6」などと簡潔にできます。
ゲーム内のアイテムなどは無数に同じものが存在して、プレイヤーにとっては代替性があるに等しいです。よって、セミファンジブルトークンが向いています。
既にゲーム分野では、Move to Earnの「Genopets」がセミファンジブルトークンを採用したり、「Niftyswap」と呼ばれるセミファンジブルトークン対応のマーケットプレイスが誕生したりしています。
NFTチケットとは、イベントなどのチケットをNFTの形式で発行したものです。欧州のサッカー界などで採用され始めており、日本ではパリ・サンジェルマンのジャパンツアーで最高1,000万円のNFTチケットが販売されたことが話題となりました。
チケットの分野も、セミファンジブルトークンに向いていると考えられます。チケットは大量に発行されるので、ひとつひとつが独立したNFTとして発行するよりも、セミファンジブルトークンの形式でまとめて発行する方が合理的かもしれません。
紙のチケットの半券を記念として保管するのと同様に、NFTチケットはイベント終了後にコレクションになります。セミファンジブルトークンであれば、使用後のチケットをNFT化できるので、コレクターの需要を満たせるかもしれません。
金融NFTとは、株や債券などをNFT化したものです。セミファンジブルトークンは、数量の概念があって統合したり分割したりできるので、金融NFT分野に適していると期待されています。
現時点の利用例としては、不動産の権利を分割して販売したり、株式を取引したりすることが可能になると予想されています。
例えば、Web3.0時代のデジタル資産を推進する「Solv Protocol」が、セミファンジブルトークンを用いた債券発行を計画しています。
Web3.0とは、分権化された次世代のインターネット環境を指します。現代の中央集権型インターネット環境(Web2.0)は、大手IT企業が強い影響力を持っています。その一方、Web3.0では、個々のユーザーが重要な役割を担います。
金融商品がトークン化されれば、既存の金融市場をトークンエコノミー(仮想通貨を中心にした経済)に取り込むことが容易になります。結果的にDeFi(分散型金融)に更なる広がりをもたらす可能性があります。
セミファンジブルトークンは新しい存在です。仮想通貨市場での開発はこれからの段階で、どのような利用例が生まれるかは未知数です。しかし、期待されている分野でもあります。
今後、NFTは数十億ドルから数百億ドル規模の市場を作ると予想されており、セミファンジブルトークンはそれに貢献することができるでしょうか。興味が湧いた方は、この機会に関連プロジェクトを追ってみるのも良さそうです。
作成日
:2022.11.01
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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