作成日
:2022.06.22
2023.03.16 15:54
(2022年7月1日追記)ヘッジファンド「Three Arrows Capital(3AC)」は、ブリティシュ・バージン・アイランド当局から清算命令を受けました。
2022年6月、シンガポールを拠点にする大手仮想通貨(暗号資産)ヘッジファンドであるThree Arrows Capital(3AC)が、仮想通貨価格の大規模な暴落に伴って、ポジションを強制決済されたと報道されました。
これを受けて、仮想通貨関連メディアやTwitter(ツイッター)などのSNS上では、3ACが債務超過に陥った可能性があるとの見方が出てきており、仮想通貨コミュニティ全体に不安が広がっています。
当記事では3ACの概要を説明した上で、同社が置かれている現状や仮想通貨市場への影響などを解説します。
3ACは2012年にスー・チュー氏とカイル・デイビス氏によって立ち上げられたヘッジファンドです。3ACは仮想通貨に投資してリターンを得ることを目的としており、今では50近い仮想通貨関連プロジェクトに投資しています。
主要な仮想通貨としては、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、ポルカドット(DOT)、ソラナ(SOL)、テラ(LUNC、旧LUNA)、アバランチ(AVAX)などが挙げられています。
その他、アクシーインフィニティ(AXS)を始めとするブロックチェーンゲームやメタバース(インターネット上に構築された三次元空間)ゲームだけでなく、DeFI(分散型金融)関連プロジェクトにも数多く出資している模様です。
代表的なものとしては、仮想通貨レンディングのAAVEや、最近出金停止を行ったCelsius Network(セルシウス・ネットワーク)で話題になったLIDO、DEX(分散型取引所)のdydxなどが存在します。
3ACはこれらプロジェクトの仮想通貨をポートフォリオに保有しており、その総額はピーク時で約100億ドルから180億ドルに達していたといわれています。このことから、3ACは仮想通貨市場で主要なヘッジファンドで、とりわけDeFi分野に大きな影響力を持っていると認識されています。
金融メディアの「Financial Times」は、ある情報筋からの話として、3ACが仮想通貨レンディングサービスを提供するBlockFiからのマージンコールに対応できずに、ポジションの一部が強制的に精算されたと報道しました。
マージンコールとは含み損が拡大して証拠金維持率が一定水準を下回った場合に、追加資金の入金を求めることです。資金が入金されて証拠金維持率が回復すれば、ポジションを維持することができます。しかし、そうでなければ、強制的にポジションを精算して証拠金維持率を安全な水準にまで改善することになります。
Financial Timesの報道はあくまでも憶測の域を出ません。しかし、BlockFiのザック・プリンスCEOは、「ある大口の顧客の借り入れに対してBlockFiは最良の判断をした」
と発言しており、3ACが抱える資産が強制精算されたことをほのめかしています。仮想通貨メディアの「The Block」は、FTXやDeribit、BitMEXなどの取引所も3ACのポジションを強制精算したと報道しています。
これらの取引所への被害は小さいと目されていますが、3ACはBitMEXに600万ドル程度の負債を抱えていることが明らかになりました。報道では3ACが複数のポジションで合計4億ドルを精算するに至ったと伝えられています。3ACはBlockFiを筆頭に、GenesisやNexo、Celsius Networkなどから借り入れて(レバレッジをかけて)資産を運用していたことが指摘されています。
以前から仮想通貨価格が暴落した際のリスクは懸念されていましたが、今回、それが現実のものとなりました。これを受けて3ACの共同創設者であるチュー氏は、「我々は関係者と協議を進めており、これを解決するために全力で取り組んでいる」とコメントしています。
We are in the process of communicating with relevant parties and fully committed to working this out
— Zhu Su ? (@zhusu) June 15, 2022
現在、3ACは債務の調整に追われている模様です。報道では、法律アドバイザーや財務アドバイザーを迎え入れ、投資家や債権者への対応を模索していることが明らかになっています。
3ACの共同創設者であるデイビス氏は、資産売却や企業による救済策などの選択肢を検討していると語っています。先行きは不透明ですが、3ACは債権者に時間的な猶予を求める意向です。
3ACはアバランチやポルカドット、ソラナ、イーサリアムなどを大量に保有して運用していたと考えられます。しかし、これらの仮想通貨は全てビットコインの不調に引きづられる形で、大きく価格を下げており、3ACに打撃を与えることとなりました。
当記事執筆時点(2022年6月)で、仮想通貨市場全体の時価総額は、最大額を記録した2021年11月頃と比較して3分の1となる9,000億ドル程度まで下落しています。
画像引用:CoinMarketCap
その他、3ACはステーブルコインであるUSTを運用するテラに大規模な投資を行なっていたことが明らかになっています。USTは米ドルに連動するステーブルコインでしたが、2022年5月に価格が暴落して話題になりました。
USTの暴落でテラの価値はほぼゼロになっていることから、3ACはかなりの痛手を負ったのではないかと推測されています。
2022年5月、分散型ステーブルコインのUSTが米ドルとの連動性を失う事態に陥りました。USTは裏付けとなる資産を保有しないことから、制御を失って価格が崩壊してほぼ無価値になる結果に終わりました。これに伴って、USTの発行と償還に利用されるLUNAもほぼ価値を失っています。この騒動は時価総額にして4兆円以上の損失を招きました。
3ACが危機的状況に立たされる中、仮想通貨市場では直接的な債権者となっている企業以外にも、CeFi(中央集権型金融)関連企業に影響が波及しています。
CeFiは日本語で中央集権型金融と訳すことができます。ブロックチェーン上で展開されるDeFiとは異なり、企業が管理者となって顧客資金を管理することが特徴的だといえるでしょう。DeFiと比較してCeFiは、透明性や公平性に乏しく、運営側の判断で入出金やサービスが停止される可能性があるというリスクを抱えています。
例えば、Finbloxは2022年6月17日にひと月あたり最大1,500ドルの出金制限を設けて、報酬分配も一時的に停止することを発表しました。Finbloxは仮想通貨を預け入れるだけで金利収入を得ることが可能な貯蓄口座のようなサービスを提供しています。
Finbloxは3ACを含む8社と提携していると説明し、「3ACによる流動性への影響を評価する」
ことを理由に、このような措置を取ることを決定しました。詳細は明らかではありませんが、3ACに資産運用を委任して被害を被ったとの憶測も飛び交っています。これに続いて、香港に拠点を置く仮想通貨レンディングのBabel Financeも、出金を停止することを発表しました。Babel Financeは具体的な名前に言及せず、「業界におけるいくつかの企業が連鎖的なリスクイベントを経験した」
と伝え、流動性の問題に直面しているため決断に踏み切ったと説明しています。仮想通貨価格が低迷していることを背景に、様々な問題が表面化してきています。最近では、企業によるリストラやビットコインマイニングの収益性低下、DeFi関連サービスのTVL(ブロックチェーンに預け入れられた仮想通貨の合計値)の減少などが報告されている状況です。
3ACが債務超過に陥って破綻してしまえば、この流れに拍車をかけることとなるだけに、これが今後の仮想通貨市場の行くへを占う重要な資金石となるかもしれません。
出典元:
作成日
:2022.06.22
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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