作成日
:2022.05.12
2023.03.16 15:54
2022年5月8日以降、人気ステーブルコインUSTの価格が急落しています。1UST=1米ドルであるはずが一時的に0.3ドル付近まで下落し、その後も乱高下しています。仮想通貨市場では何が起こっているのでしょうか。当記事では、ステーブルコインとしてのUSTの仕組みから価格変動の要因、今後の見通しなどに迫ります。
なお、この記事を読み進めるために、以下の3点をご確認下さい。
USTの仕組みや暴落の要因を考察する前に、価格下落の様子を紹介します。下のチャートは、USTの7日間の価格推移を示しています。本来ならば1ドル付近で安定的に推移しなければならないのに、一時的に0.3ドル付近まで急落していることが分かります。
画像引用:CoinMarketCap
次に、LUNAの値動きを確認しましょう。LUNAは、UST価格の維持で重要な役割を担っています。下の表示期間1年のチャートを見ますと、右端部分で一気に暴落していることが分かります。わずか1週間で価格が99%も下落してしまいました。
画像引用:CoinMarketCap
なぜ、このような事態になってしまったのでしょうか。これを考えるために、USTの仕組みから順に紹介します。
ステーブルコインの仕組みには、いくつかの種類があります。最も一般的な方法は、法定通貨を準備金として保管する方法です。
例えば、テザー(USDT)の場合、ユーザーがテザー社に米ドルを支払って同額のUSDTを受け取ります。テザー社は、受け取った米ドルを準備金として保管したり、一定割合の米ドルを資産運用に回して収入を確保したりします。また、ユーザーはUSDTをテザー社に返却すれば、米ドルを取り戻すことができます。USDTの価値の源は、USDTに対応する米ドルが現実に存在するという安心感です。このような、準備金がある仮想通貨を担保型ステーブルコインと呼びます。
一方、USTは無担保型ステーブルコインに分類されます。その名の通り、担保となる資産がありません。担保の代わりに裁定取引アルゴリズムを採用しており、USDTと仕組みは違えど1UST=1米ドルの維持が可能です。
裁定取引とは、同じような価値を持つ商品等の一時的な価格差を利用する取引手法です。何らかの理由で一方の商品等が理論値よりも高くなる場合、市場参加者はその商品を売ると同時に、割安になっている側を買います。すると、割高な側の価格は下落し、割安な側の価格は上昇して元の安定的な価格に戻ります。こうして、これら2つの価格は安定的に推移します。
ユーザーは、1米ドル分のLUNAで1USTを新規発行したり、1USTで1米ドル分のLUNAを償還したりできます。そして、UST価格が1米ドルから離れると、裁定取引の機会が生まれます(詳しくは下の記事で解説しています)。価格が上がれば売り圧力が高まり、価格が下がれば買い圧力が高まる構造のおかげで、USTは安定性を保つことができるのです。
なお、Terra(テラ)を支援する団体LFG(Luna Foundation Guard)は、USTの準備金としてビットコイン(BTC)等をいくらか保有してきました。よって、USTは完全に無担保型ステーブルコインというわけではありませんが、価格維持の仕組みとして裁定取引を基本に据えています。
USTが暴落したことに関して、暴落の要因は確定していません。しかし、特定の大口ウォレットが暴落前にUSTを大量売却したことが確認されており、組織的な攻撃を疑われています。
また、DeFi(分散型金融)関連サービス「Anchor」に預けられていたUSTが大量に引き出されたことも、要因の1つになったと報道されています。Anchorは仮想通貨レンディングサービスを展開しており、UST総供給量180億ドル相当のうち約140億ドル分が預け入れられていました。しかし、今回の暴落を受け、大幅に減少しています。下のグラフを見ますと、預入額(緑色)と借入額(黒色)のグラフが急落している様子がわかります。
画像引用:Anchor Protocol
仮想通貨レンディングは、仮想通貨の貸し借りができるサービスです。ユーザーは、仮想通貨を預け入れて金利を受け取ったり、金利を支払って借り入れることが可能です。Anchorプロトコルはステーブルコインに高い報酬を付与してきたため、人気を集めていました。
きっかけは大口の売りだったとしても、それがUSTやLUNAの暴落につながった理由は何でしょうか。LUNAに至っては、1週間で価格が99%も下落しました。これは、USTの仕組みが原因です。
USTは、価格維持のために裁定取引を利用しています。具体的には、UST価格が上昇したら、ユーザーはLUNAをバーン(焼却)してUSTを新規発行します。逆に、UST価格が下落したら、ユーザーはUSTをバーンしてLUNAを新規発行します。ところが、これが機能しなくなったため、暴落の連鎖となりました。
USTが暴落する前から、仮想通貨市場全体で価格が下落基調でした。すなわち、USTやLUNAの保有者は価格維持に不安を抱えていました。そこに大口の売りが重なり、UST価格が1米ドルよりもわずかに下方向に動きました。すると、UST保有者は1UST=1米ドルを維持できるか不安になりますし、LUNA保有者も、LUNAの価格維持についてさらに不安になります。
不安になれば、手元のLUNAを売って現金化して安全を確保します。すると、LUNAはさらに価格が下落します。これを見たUST保有者は安全を確保したくなり、保有しているUSTをバーンしてLUNAを新規発行し、そのLUNAを売って現金化します。この過程で、LUNAは新規発行され続けますので総発行量が劇的に増加し、価格が暴落します。
なお、USTには、ビットコイン(BTC)などの準備金があります。その準備金を売ってUSTを買えば、価格をある程度維持できます。しかし、LUNA価格は継続的に下落し続けます。
LUNAやUSTは国内取引所での取り扱いがなく、日本の仮想通貨コミュニティでは、海外ほど大きな話題になっていません。しかし、USTが安定性を回復できなければ、他の仮想通貨の大幅下落を通じて、国内市場でも開発や事業面で影響を受けることになるかもしれません。
USTはステーブルコインですが、実際には米ドルとの価格連動性が失われています。そこで、Terra(テラ)創設者のDo Kwon氏は2022年5月9日のツイートで、15億ドル相当の資金を投じてビットコイン(BTC)とUSTを確保し、これを利用してUST価格を安定化させるとしました。
これに対して仮想通貨コミュニティでは、価格が下落しているビットコイン保有がUST安定化にどの程度効果を発揮できるか、疑問が出ています。価格変動が激しい仮想通貨を準備金にする場合、テザーなどの担保型ステーブルコインとは勝手が異なるため、価格安定に効果的かどうかわかりません。ビットコイン価格は2021年7月以来の安値を更新しており、更なる下落も予想されています。加えて、Terraの中心であるLUNAも大幅に下落しており、USTの見通しは不透明です。過去にも、USTは価格変動に悩まされた経緯があるだけに、安定化は前途多難です。
作成日
:2022.05.12
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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