作成日
:2021.03.22
2022.04.20 12:27
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は3月17日、2021年版となる市場のトレンド、リスク、脆弱性(Trends, Risks and Vulnerabilities)【以下、TRVと称す】に関するレポートを公表した。
ESMA規制下の欧州市場は、依然としてリスクが高い水準にあるとのことだ。株式及び債券市場が新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック前の水準に回復する一方、経済のファンダメンタルズは弱いという。良好な金融市場と脆弱な経済環境というデカップリングが生じている環境下において、同局は突如として市場に調整が入る可能性があると指摘している。
ビットコイン(Bitcoin)を含む仮想通貨(暗号資産)に関しては、多くの投資家が関心を寄せている状況だ。しかしながら、2018年2月に仮想通貨への警告を共同で発表したESMAと欧州銀行監督機構(EBA)及び欧州保険年金監督機構(EIOPA)の3つの欧州監督当局(ESA)は、一部の仮想通貨に関して非常にリスクが高く投機的であり、全ての資金を失う可能性もあることから、これら金融商品の購入や保有に再度注意を呼び掛けている。また、欧州連合(European Union)【以下、EUと称す】においては多くの仮想通貨が規制対象外となっているため、これら金融商品を購入及び保有する個人投資家は、規制下にある金融サービスに関連した補償やセーフガード措置を受けられないという。尚、2020年9月、欧州委員会(EC)は欧州主要国がステーブルコインへの対策強化を要請したことを受け、仮想通貨市場を規制する法案を提出している。但し、同法案は未だEU法として適用されていないため、個人投資家は想定されている如何なるセーフガード措置に関連したベネフィットも享受できないとのことだ。
市場参加者がブレグジットへの周到な準備を進めてきたことにより、証券市場においては、英国のEU離脱に伴う大きな混乱は見られていないという。また、EUの株式取引義務(Share Trading Obligation, STO)の適用を受け、欧州の取引環境が変化し始めているとのことだ。2020年においては、欧州経済地域(EEA)を拠点とする企業が発行する株式の43%が、英国の取引施設を通じて取引されていたという。しかしながら、英国がEUを離脱した2021年1月には、EUのリット(Lit)市場での取引及びオークション方式を採用する取引所取引が、それぞれ96%、93%増加しており、多くの取引所取引がEUの取引施設にシフトしていることがうかがえる。
尚、TRVレポートにはマネー・マーケット・ファンドや気候変動関連の投資リスク評価、投資ファンドの流動性枯渇への対応評価、スプテック(SupTech)の活用、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価など、サステナブルファイナンスや市場の脆弱性に対するリスク評価に関する項目も含まれている。
ESMAの規制対象外にある仮想通貨への投資が危惧される中、同局が金融市場の安定化と投資家保護の徹底に向けて如何なる対応を見せるか、その動向を見守りたい。
release date 2021.03.22
出典元:
ニュースコメント
ブレグジットを機にシェア拡大を図る大陸欧州の金融サービスプロバイダー
英国のEU離脱は、同国の金融市場に対して確実に影響を及ぼし始めている模様だ。ESMAが指摘したように、英国・ロンドンから大陸欧州各国の取引施設へ株式注文がシフトしている。中でも、グローバル投資家に対してフレンドリーな規制を敷くオランダ・アムステルダムが躍進を遂げており、2021年1月の株式取引シェアにおいては、英国を抜き欧州トップに立った。同国ではCBOEがEuroCCPを買収し、欧州株式事業の強化を図っている。また、三菱UFJ証券がアムステルダムに現地法人を開設し、ブレグジット後も継続的な証券サービスの提供を試みている状況だ。更に、ボルシアMGと提携したDEGIROもアムステルダムを拠点としており、圧倒的な価格競争力を武器に多くのトレーダー獲得に成功しているという。規制環境が変化する欧州市場において、アムステルダムに加え、欧州の金融ハブを目指すドイツ・フランクフルトやフランス・パリを拠点とする金融サービスプロバイダーが、更なる顧客基盤の拡大に向けて如何なるソリューションを講じるか今後も注目したい。
作成日
:2021.03.22
最終更新
:2022.04.20
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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