作成日
:2019.09.09
2021.08.31 15:29
今年7月、中国の中央銀行である中国人民銀行(People's Bank of China)【以下、PBoCと称す】がFacebook(フェイスブック)のリブラ(Libra)に対抗する独自仮想通貨の開発に着手したと報道されたが、同国でDCEP(Digital Currency/Electronic Payment)という名称のステーブルコインのローンチが迫っていることが明らかになった。
Facebookはリブラの立ち上げを今年6月に発表したが、米国や英国ではリブラに対する公聴会が開催されたのに加え、タスクフォースが組織されるなど、その影響力の高さが物議を醸している。また、リブラの利用が活発になることが予想される発展途上国の政府は、このステーブルコインが流通しないように予防策を講じているという。これに関してPBoCのディレクターであるWang Xin氏は米ドルに連動する仮想通貨が世界的に普及すれば、米国の経済的および政治的な脅威が増すと発言し、中国でもリブラに対する警戒心が高まっていることがうかがえる。
中国政府は約5年前に仮想通貨の研究開発を開始しているが、Facebookの動きを受けて、中国でのステーブルコイン開発が加速しているようだ。先月10日、PBoCの副局長であるMu Changchun氏はブロックチェーン技術を基礎としたシステムにはこれまで以上の拡張性が必要となり、実現するためには高いハードルがあると指摘したものの、同時にDCEPの準備が整ったことを公表した。報道によると、このDCEPは中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China)、中国農業銀行(Agricultural Bank of China)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、Union Pay、国銀行協会などの企業を介して流通するという。PBoCは技術的な詳細を公開していないが、このDCEPは同行と商業銀行を繋ぐ第1層のネットワークおよびそれと小売市場を繋ぐ第2層のネットワークから成る、2層システムによって運用されることがわかっている。
このPBoCの試みに関して多くのアナリストは、DCEPが本来の意味での仮想通貨ではなく、監視を強化した中央集権型のデジタル通貨に近い存在になる可能性があることを指摘している。また、eToroのシニアアナリストであるMati Greenspan氏は、DCEPは他の仮想通貨とは異なり、人々に経済的な自由を与えることよりも、中国政府が取引を監視することを念頭に設計されていると主張した。DCEPの最終目標は現金と同レベルの高効率なトランザクションを実現し、2層システムによって管理可能な匿名性を構築することだという。
DarcMatter Chinaでマネージングディレクターを務めるNicholas Krapels氏は、このPBoCの目論見に関して次のようにコメントしている。
DCEPが消費者の間で流通すれば、人民元の国際化が進むと同時に経済スピードが上昇するでしょう。貨幣数量説の観点から言えば、中国経済はマネーサプライの大幅な増加に依存して成長を続けています。2008年の金融危機以来、毎年8%以上の割合で通貨供給量が増加しているにも関わらず、物価やGDPの伸びは停滞しているのです。別の見方をすれば成長が減退しているとも言えますが、PBoCはDCEPを導入し、マネーサプライを減少させることを目論んでいます。現在、中国の都市部では既にほとんどキャッシュレスに移行しているものの、AlipayやWeChat Payまたは銀行口座間で遅延なく低い手数料で送金することはできません。DCEPはこの状況を劇的に改善し、財政危機を招くリスクを回避しながらGDPの成長を促すでしょう。
Nicholas Krapels, Managing Director at DarcMatter China - Finance Magnatesより引用
競合のステーブルコインに関してKrapels氏は、複数の通貨バスケットに連動するリブラは中国では間違いなく許可されないと言及しており、同様にバイナンスのビーナス(Venues)が同国で採用される可能性は低いと述べている。バイナンスのCEOであるChangpeng Zhao氏は国のルールに違反しないことを示唆しているが、人民元に連動するステーブルコインのローンチ自体がDCEPの脅威になるようだ。しかしながら、バイナンスは中国語でビーナスの発表を実施したのに加え、中国が進める一帯一路構想について触れ、政府の関心を引いている模様だ。
それでもKrapels氏は中国が他のステーブルコインを導入できるかに関しては懐疑的な見方を示しているが、将来的に政府や民間企業がステーブルコイン発行に動けば、中国政府もその方針を軟化させる可能性があるという。そのためには信頼できるビッグテック企業(大手テクノロジー企業)の取り組みが鍵となると言えるが、Facebookやバイナンスはどのように動くのか、今後の展開に注目していきたい。
release date 2019.09.09
現在、GAFAを始めとするビッグテック企業は、政府の力を凌駕するほど強大な影響力を持ち始めており、GAFAだけの売上高でも2018年度のイギリスやインドのGDPを上回る規模に達するまでに成長しているという。これに反発するかのように、EUを中心とする地域では、独占禁止法、税制、プライバシー規制の3つを軸にビッグテック企業を包囲する方針を固めているようだ。その結果、GoogleはEUで既に2度の制裁を受けており、2017年に約30億ドル、2018年に約50億ドルの罰金を支払わされている。また、これらの企業が租税回避を行なっていることが問題視されているため、イギリス政府は国内に拠点を持たない企業の売上に2%の税金を課すデジタル課税を成立させた。今年7月、日本政府もリブラに関するワーキンググループを立ち上げ、国内市場への影響を精査しているようだが、どのような判断を下すのか、今後も各国の動きを見守っていきたい。
作成日
:2019.09.09
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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