作成日
:2018.11.01
2022.01.27 17:25
欧州域内を管轄とする金融規制当局である欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、2018年9月末に適用期間を3か月延長させていたCFDの取引や流通およびマーケティングを制限する新規制策に関する詳細な意見書
を公表した。ESMAの新規制は8月に適用が開始されて以降、その翌月にはすぐにCFD規制の期間延長をESMAが発表している。
この度公表された意見書のうち、主な事項としてデータ開示義務のある顧客の利益・損失発生口座の割合が公表されており、ESMAの新規制が導入された2018年8月と前年の2017年8月を比較すると、レバレッジ制限を課した2018年8月の方が、利益発生口座の割合が若干ながらも減少している。ESMAもその事実を認めていることは大変興味深い点だと言える。ただし、データを抽出した2017年8月は、仮想通貨の価格が急騰していたことから、2018年8月と比較してより収益をあげやすい投資環境であったため、ESMAとしては、利益発生口座の割合が減少したことに関して、さほど気にも留めていないようである。むしろESMAは、新規制のもとで、強制ロスカットや口座残高がマイナスとなる事態が減少したことを強調している。
またESMAは今後、一定水準の投資家保護策を採らず、新規制下でも引き続きハイレバレッジを提供できるプロフェッショナル顧客層へのサービスに注力する欧州圏内のライセンスブローカーの動向を注視していく意向である。加えてESMAは、オフショアブローカーが欧州域内の顧客に対し積極的に勧誘を行っていたり、EUライセンスを保持するCFDブローカーの中にも、規制が比較的緩い自社グループ内のオフショア法人へ個人投資家を誘導するマーケティングを行っていたりしていることを認識しているとのことである。オフショア市場で取引をすることを顧客の側から望むことは問題ないが、欧州域内のブローカー側から積極的に顧客を誘導することは認められていない。しかし少なからずそのようなマーケティングが行われているのも事実であるようだ。
意見書のその他の事項を整理すると、2018年8月1日より導入されたESMAの新規制は、期間が延長され2019年1月末まで適用される見込みであること、また、新規制が3か月毎に見直されることは従来と変わりはない。また、2018年8月と2017年7月を比較すると、CFD取引を行う個人投資家の口座数や取引高などが減少する一方、プロフェッショナル顧客層は拡大している。ただしESMAは、たとえ新規制の適用期間を延長したとしても、金融市場の効率性を歪めたり投資家にマイナスの影響を与えることはないとの認識を持っており、むしろ、新規制の適用期間を延長しなければ、ブローカーは個人投資家を保護する十分で適切な策を講じずに、再びリスクを度返しにしたCFD取引サービスを提供するだろうと見ている。
各国規制当局は、特にリスク警告に関してESMAの新規制策を遵守していない事案を僅かながらも確認しているほか、ESMAはサードパーティーの広告配信業者を利用した広告掲載に関して一部規制を見直している。なおESMAによると、この度の意見書は各国規制当局へ通知されたうえで、既に承認されているとのことだ。
release date 2018.11.01
ESMAの新規制が導入されて以降、業界内では様々な変化が顕著に現れ始めている。ブローカーやトレーダーが最も注目しているレバレッジ規制が延長されたことにより、トレーダーは高レバレッジを求めオフショアへとシフトし始め、またブローカーは、その需要に応えるべくオフショア法人を設立する動きが目立ち始めている。また、その他にもプロトレーダー向けの階層を設けることで引き続きハイレバレッジを提供するブローカーも増えており、今年4月にはCMC MarketがCMC Proという、新規制適用後もハイレバレッジでの取引が可能となるプロトレーダー向けのサービスを開始している。この度公表された意見書では、ESMAはこの実態を把握していることを認めているが、ESMAがオフショアブローカーを規制することはできず、オフショアブローカーへ誘導するマーケティングを禁止するに留まっている状況だ。皮肉にも新規制導入後に利益発生口座の割合が減少しているようだが、今後調査を続けるうちにこの割合がどのように変化していくのか引き続き注目していく必要があるだろう。
作成日
:2018.11.01
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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