作成日
:2022.08.04
2023.03.16 15:30
2022年8月3日、ソラナ(SOL)が大規模なハッキング被害に見舞われました。その被害総額は800万ドルを超えたとも報告されています。Twitter(ツイッター)上でも多数の被害が報告されており、仮想通貨(暗号資産)コミュニティに混乱をもたらしています。
当記事執筆時点(2022年8月3日)時点で、被害はなお拡大している模様です。今回は、ソラナのハッキング被害の原因や対策について解説します。
ソラナは、2020年にメインネットが公開されました。イーサリアム(ETH)と同じく、DApp(分散型アプリ)の基盤として活用され、仮想通貨市場を代表するプロジェクトのひとつとなっています。また、高性能なブロックチェーンであり、0.01ドル以下の取引手数料で、1秒あたり5万件のトランザクションを処理可能とされています。
このように高い性能を有していることから、ソラナはレイヤー2と呼ばれる副次的なブロックチェーンを必要としません。
メインとなるブロックチェーン「レイヤー1」に対して、それを基礎に構築され、情報処理を手助けする副次的なブロックチェーンをレイヤー2と呼びます。レイヤー2は、レイヤー1のスケーラビリティ問題を緩和します。すなわち、取引承認の遅延や手数料高騰などを回避します。
大手取引所のBinanceやFTXが支援していることもあり、人気のブロックチェーンとなっています。DAppプラットフォームとしても優秀で、今では数多くのDeFi(分散型金融)関連サービスやPlay to Earnのブロックチェーンゲーム、NFTマーケットプレイスなどに活用されています。
今回、Phantom WalletやTrust Wallet、Slope Walletなどソラナの仮想通貨ウォレットから、多数の仮想通貨が盗まれました。調べによると、犯人のものと思われるウォレットアドレスに、合計800万ドルを超える資金が送金されている模様です。
ブラウザ版とモバイル版の両方のウォレットでハッキングが発生しており、被害にあったウォレット数は8,000近くに達しています。その多くは、ユーザーの知らぬ間にウォレット内の仮想通貨が流出しています。
当記事執筆時点(8月3日)において、詳しい原因は明らかになっていません。一部では、ウォレットに不正なプログラムが仕込まれていた、または、ライブラリ「Solana Program Library」に問題があったのではないかとの憶測が広がっています。
ライブラリは、汎用性の高いプログラムをまとめて再利用可能な形にしたものです。プログラムの中で呼び出すことができるので、プログラミングの手間を省き、アプリなどの開発を容易にすることが可能です。ソラナのエコシステムにおけるDApp開発にも、ライブラリが利用されています。
有力な説として、シードフレーズが何らかの形で漏洩した可能性があります。
シードフレーズとは、ランダムに生成された複数の単語の羅列です。リカバリーフレーズとも呼ばれます。その名の通り、ウォレットを復元したり、異なるデバイスのウォレットを同期化する際に利用します。
シードフレーズはウォレットを作成する際に発行され、変更されることはありません。シードフレーズを盗まれると、ウォレットごと乗っ取られる可能性があるので、ユーザーは紙に書いて保管するなどして、絶対漏洩しないように管理することが推奨されています。
被害にあったウォレットが、ユーザーの署名で送金を行なっていることから、犯人の手元にはシードフレーズがあると推測されています。
ハッキング被害は、まだ終息していません。加えて、ソラナに対応している全ウォレットが被害を受ける可能性があり、仮想通貨市場全体の脅威となっています。現状、被害拡大を防ぐために、以下の対策が勧められています。
ウォレットは、各種サービスとの接続を許可することで、資金を送金したり受け取ったりできます。本来、この操作には、ユーザーの承認が必要なのですが、知らず知らずのうちに身に覚えのないサービスに接続している可能性もあります。
このため、ウォレットと各種サービスの接続解除(Revoke)が推奨されています。Phantom Walletの場合、設定画面から「信頼済みアプリ(Trusted Apps)」に進み、「取り消し(Revoke)」のボタンをクリックすると、接続を解除できます。
画像引用:Phantom Wallet
ウォレットの接続を解除しても、応急措置にしかならないとの意見もあります。しかし、原因が定かではないので、実行する方が良いでしょう。
その他の対策としては、ソラナのウォレットから安全なウォレットに移動することが考えられます。イーサリアム系のウォレットにも同様のリスクがあるかもしれないとの憶測も広がっているので、CEX(中央集権型)の取引所やハードウェアウォレットが選択肢として挙げられます。
なお、大規模なハッキング被害を受けても、ソラナ価格の急落は見られません。しかし、2021年11月以降、価格下落が継続しています。2022年6月あたりまで下落して以降、レンジ相場の様相を呈しており、4,000円台から6,000円台の範囲で推移しています。
2021年11月に記録した29,000円台の最高値と比較すると、現在は6分の1程度の水準に留まっています。
画像引用:CoinMarketCap
ソラナは、高い技術やSTEPNなどのキラー・アプリの存在で、主要なブロックチェーンの仲間入りをしました。その時価総額は、仮想通貨市場でトップ10位にランクインするほどの規模にまで成長しています。
キラー・アプリとは、プラットフォーム普及に貢献する人気アプリを指します。STEPNは主にソラナを基盤にして開発されており、ソラナのユーザー獲得に大きく貢献しました。
しかし、これまで度々、技術的な不具合に見舞われて被害を出しており、信頼を失いつつあります。過去には、以下のような事態に陥っています。
ソラナは、高いトランザクション処理性能を持つと考えられています。それでも、何らかの理由で取引が集中すれば、混雑して遅延したり、停止することもあり得ます。2022年6月には、「Candy Machine」と呼ばれるNFT発行ツールが取引量を増加させて、処理速度低下を招きました。
それ以外にも、同様の理由で処理速度の低下が発生してきました。その度に、取引所での送受金が遅れたり、DAppの利用が制限される事態に陥っています。
このような障害の対策としては、ネットワークに過度の負荷をかける者に対して0.01SOLのペナルティを科すことなどが考えられています。その他にも、混雑時に取引を成立させる手段として、優先手数料を設定することも検討されています。
今回のハッキング被害は、ソラナにとって初めてのものではありません。2022年に入ってから、ソラナのクロスチェーンブリッジであるWormholeにおいて、12万ETHが流出したハッキング被害に遭っています。
クロスチェーンブリッジとは、複数のブロックチェーンを繋いで、規格の異なる仮想通貨を利用可能にする技術です。この技術が普及すれば、ブロックチェーンを跨いで仮想通貨をやり取りできます。ブロックチェーンが乱立している現在、クロスチェーンブリッジは仮想通貨市場で重要な存在です。
Wormholeは、イーサリアムを担保に1対1の比率でラップド・イーサリアム(wETH)を発行します。ラップド・イーサリアムとは、他のブロックチェーンのトークン規格に準拠するイーサリアムで、ソラナのブロックチェーン上で利用することができます。犯人のハッカーは、スマートコントラクトの脆弱性を突いたと考えられます。
従来、中央集権型のサービスと比較して、分散型のサービスは安全面で優れていると考えられてきました。特に、中央集権型の取引所でハッキングが頻発していたことから、そう考える人も少なくないでしょう。しかし、分散型のサービスも完璧ではありません。今回のソラナにおけるハッキング被害は、それを証明する形となりました。
原因はまだ明らかではないですが、システムに脆弱性が内包されていることは確かです。安全性を考慮するのであれば、資金を分散させたり、インターネットに接続されていないハードウェアウォレットを利用するのが良いでしょう。
作成日
:2022.08.04
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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