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仮想通貨のステルスアドレスとは?ヴィタリック・ブテリン氏がイーサリアム(ETH)への導入を提案

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update 2023.09.05 14:15
仮想通貨のステルスアドレスとは?ヴィタリック・ブテリン氏がイーサリアム(ETH)への導入を提案

update 2023.09.05 14:15

2023年1月20日、イーサリアム(ETH)の共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏がステルスアドレスに関するブログ記事を公開しました。

イーサリアムを利用するユーザーのプライバシー保護は、以前からひとつの課題として認識されており、今回のブテリン氏の投稿で変化の機運が高まっています。しかし、ステルスアドレスにはメリットだけでなく問題点も存在するため、本格的な実装に向けては検討が必要とされています。

当記事では、そもそもステルスアドレスとはどのようなものなのか?という特徴や、ステルスアドレスのメリット・問題点などを解説します。また、すでにステルスアドレスを採用している仮想通貨(暗号資産)も紹介します。

ステルスアドレスとは

ステルスアドレスは、送受金の情報を秘匿するために利用されるウォレットアドレスです。ユーザーのプライバシーを担保するために、取引ごとにアドレスを生成します。一度使用したアドレスは二度と使用しません。

ステルスアドレスのイメージ

ブロックチェーン上には、送金者や受金者のアドレス、仮想通貨の送金額などの情報が記録されており、それらは誰でも閲覧することが可能です。イーサリアムをはじめとしたパブリックブロックチェーンは誰でも匿名で利用できますが、資金の流れを追われると個人情報が特定される可能性があります。

point パブリックブロックチェーンとは

パブリックブロックチェーンとは、参加者が限定されておらず、誰でも参加できるブロックチェーンのことです。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など代表的な仮想通貨(暗号資産)が導入する、非中央集権的なブロックチェーンのことを指します。

現在でも、ユーザーのプライバシーを保護できるミキシングサービスは存在しています。ただし、一般的なミキシングサービスでは、イーサリアムなどの主要なERC-20トークンのみしか適用できないという問題がありました。

しかし、ステルスアドレスを使えば、イーサリアムをはじめとした仮想通貨だけでなく、NFTの送受信時にもプライバシーを確保することが可能です。こういった汎用性の高さから、ユーザーのプライバシー保護のソリューションとして大きく注目されています。

ステルスアドレスの仕組み

現状、ステルスアドレスの導入はイーサリアムのコミュニティで検討されている段階です。実際にどのような形になるかは分かりませんが、ブテリン氏はブログにて以下のようなフローを提案しています。

  1. 受金者がステルスアドレス専用の秘密鍵から生成した公開鍵を共有
  2. 送金者がその公開鍵からステルスアドレスを作成
  3. 送金者がステルスアドレスに資金を送金
  4. 送金者は一時的な公開鍵を作成して公開鍵レジストリに登録
  5. 受金者が公開鍵レジストリの中から秘密鍵と対になる公開鍵を探す
  6. 受金者がステルスアドレスにある資金にアクセス
ステルスアドレスの仕組みを表すイメージ図
point 秘密鍵と公開鍵

仮想通貨の送金には秘密鍵と公開鍵が必要となります。秘密鍵と公開鍵はペアになっており、送金に必要な情報を暗号化して伝達したり、暗号化された情報を平文化するために利用されます。

ステルスアドレスは基本的に一度しか利用されません。通常のウォレットと比較して、取引履歴から個人情報を特定されるリスクは低いといえるでしょう。

ヴィタリック・ブテリン氏が提案

2023年1月、ヴィタリック・ブテリン氏は、自身のブログを通じてイーサリアムにステルスアドレスを実装するアイデアを提案しました。[1]ブテリン氏はイーサリアムの共同創設者の一人として、仮想通貨(暗号資産)業界では広く知られる人物です。

knowledge 業界におけるブテリン氏の影響力

ヴィタリック・ブテリン氏は仮想通貨市場で強い影響力を持っています。イーサリアムやブロックチェーンに関するアイデアを共有し、仮想通貨市場の発展を牽引してきました。直近では、譲渡不可能なNFTであるSoul Bound Token(ソウルバウンドトークン)を提案し、実用化に貢献しています。

ブテリン氏はブライバシー保護の問題が、イーサリアムにおける最も大きな課題の一つだと位置付けています。今後、イーサリアムが様々な用途で利用されていくためにも、プライバシーを強化する手段としてステルスアドレスを導入すべきだと論じています。

ちなみに、ステルスアドレスの導入はEIP(イーサリアム改善提案)5564にすでに盛り込まれています。詳細が決まり合意が形成されれば、将来的なアップグレードでステルスアドレスが実装される見通しです。

ステルスアドレス導入のメリット

イーサリアムがステルスアドレスを導入すると、以下のようなメリットがあると考えられます。

  • プライバシー性能の強化
  • 詐欺の標的になりにくくなる
  • NFTやマイナー通貨にも適応できる

プライバシー性能の強化

ステルスアドレスがイーサリアムに実装されると、プライバシー性能が格段に向上すると考えられます。前述の通り、ステルスアドレスの仕組みを利用すれば、そのウォレットアドレスが誰のものかを特定することが難しくなります。

ステルスアドレスの実装によってプライバシー保護を担保できれば、イーサリアムがより広範な目的で利用される可能性があるでしょう。

詐欺の標的になりにくくなる

現在の仮想通貨(暗号資産)市場では、日常的に詐欺が横行しています。中には残高の多いウォレットを狙ったフィッシング詐欺などが発生していることも報告されています。

point フィッシング詐欺とは

フィッシング詐欺とは、インターネットにおける詐欺のひとつです。信頼できる企業や団体になりすまして、クレジットカード情報や仮想通貨に関する情報、個人情報を盗みます。仮想通貨市場では様々な詐欺が横行しており、フィッシング詐欺は最も一般的な詐欺手法の一つです。

しかし、ステルスアドレスを利用することで取引内容を秘匿化できるので、トランザクションの追跡ができません。つまり、ウォレットアドレスから個人を特定できないため、フィッシング詐欺などに遭う危険性を大きく下げられるでしょう。

NFTやマイナー通貨にも適応できる

ブテリン氏が提案するステルスアドレスは、イーサリアム(ETH)などの主要な仮想通貨以外にも適応することができます。

ミキシングサービスとして知られるTornado Cash(トルネードキャッシュ)などでは、イーサリアムをはじめとした主要なERC-20トークンしか適応できません。しかし、ステルスアドレスであれば、NFTやERC-20のトークン規格で発行されるマイナーな仮想通貨でも、同じ要領でプライバシーの保護ができます。

point イーサリアムのトークン規格

イーサリアムのブロックチェーンでは、トークン規格に則って、様々な仮想通貨を発行することができます。従来の仮想通貨向けのERC-20や、NFT向けのERC-721など、イーサリアムのトークン規格は多数存在します。

ステルスアドレスの問題点

イーサリアムにステルスアドレスを導入するにあたって、以下のような問題点も存在します。

  • ネットワーク手数料(ガス代)の支払いができない
  • マネーロンダリングに悪用される可能性がある

ネットワーク手数料(ガス代)の支払いができない

イーサリアムで送金を完結させるには、少額のETHをネットワーク手数料(ガス代)として支払うことが求められます。

ステルスアドレスは空のウォレットアドレスとして生成されます。あらかじめ手数料分のETHを入金しておくことはできないので、そのままでは受け取った資金を移動することができません。メインのウォレットから手数料分のETHを入金することも可能ですが、ステルスアドレスの保有者がバレてしまうので現実的ではないでしょう。

これはイーサリアムが解決すべき課題ですが、ブテリン氏はトランザクションアグリゲーターの前払いチケット制を導入することを提案しています。チケット制を導入すると、ステルスアドレス内に取引手数料を準備しなくても、資金の移動ができます。

マネーロンダリングに悪用される可能性がある

ステルスアドレスの問題点としては、やはりマネーロンダリングに悪用される可能性が挙げられるでしょう。実際、トルネードキャッシュをはじめとしたミキシングサービスは、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」などの資金洗浄に利用されているとの疑惑があります。

様々なメリットがあるステルスアドレスですが、プライバシー保護という特徴を逆手にとって、悪用されてしまうケースも十分に考えられるでしょう。

point ハッカー集団「ラザルス」とは

ラザルスとは、北朝鮮政府の配下にある外貨獲得を目的としたハッカー集団のことです。2022年3月、アクシーインフィニティが約6億ドルを超える大規模なハッキングを受けましたが、このハッキング事件もラザルスの犯行だと噂されています。

ステルスアドレスを実装する仮想通貨

イーサリアムでは、これからステルスアドレスの実装が検討される見込みです。仮想通貨(暗号資産)市場では既にステルスアドレスに対応しているブロックチェーンも存在します。具体的な例としては以下が挙げられます。

  • モネロ(XMR)
  • ジーキャッシュ(ZEC)
  • ピヴクス(PIVX)

モネロ(XMR)

仮想通貨モネロのロゴ

モネロ(XMR)は、匿名送金に特化したブロックチェーン、およびそのネイティブトークンです。ステルスアドレスを最も早い段階で導入した仮想通貨のひとつだといわれており、ステルスアドレスに加えリング署名と呼ばれる技術も採用しています。

リング署名は送金者を匿名化する技術であり、ステルスアドレスとあわせて使うことで、さらなるプライバシー強化を実現します。

point リング署名とは

リング署名とは、ブロックチェーン上で取引を行う際に、複数人による電子署名をする取引方式です。一般的にブロックチェーンで行われる取引は、1名の人物による単独の署名が行われます。しかし、リング署名は複数の公開鍵をまとめて処理するため、署名した人物を特定できないようにしています。

ジーキャッシュ(ZEC)

ジーキャッシュのロゴ

ジーキャッシュ(ZEC)は、ゼロコインと呼ばれるブロックチェーンを元に作られました。Zcashは「T」から始まる通常のウォレットアドレスと、ステレスアドレスとして機能する「Z」から始まるウォレットアドレスの2種類を使い分けるシステムを導入しています。

他にも「zk-SNARKs」と呼ばれる技術を用いてプライバシー強化を実現しています。

ピヴクス(PIVX)

ピヴクスのロゴ

ピヴクス(PIVX)は、前述のジーキャッシュと同じゼロコインを基礎に作られたステルスアドレスを導入する仮想通貨です。正式名称は「Private Instant Verified Transaction」であり、頭文字を取った略称で呼ばれています。

また、ライトニングネットワークをサポートしており、プライバシーの強化とトランザクションスピードの両立を実現しています。

point ライトニングネットワークとは

ライトニングネットワークとは、ブロックチェーンを利用しない送金の仕組みのことです。この技術を使うと仮想通貨(暗号資産)の送信時間が短縮され、送金手数料も安価に済ませることができるため、特にビットコイン(BTC)の送金速度を改善する手法として注目されています。

ステルスアドレス導入で規制される可能性

現状、イーサリアムはステルスアドレスの導入を正式決定したわけではありません。もし、ステルスアドレスが導入されれば、イーサリアムが規制対象となる可能性があります。

プライバシーコインを排除する動き

上記で紹介したモネロやジーキャッシュ、ピヴクスなど、匿名性の高い仮想通貨(暗号資産)をプライバシーコインと呼びます。これらのプライバシーコインは、マネーロンダリングやテロリストへの資金供与などの犯罪に利用される可能性があることから、各国で規制され始めています。

例えば、ドバイでは企業によるプライバシーコインの発行と、それに関連する全ての活動が禁止されています。その他、米国やEU、日本、韓国などでも、政府当局がプライバシーコインの規制を強化する方針を打ち出しています。

この動きに伴って、プライバシーコインは仮想通貨市場から徐々に排除されていくと考えられます。ステルスアドレスを導入すれば、イーサリアムの立場も危うくなるかもしれません。

米当局がトルネードキャッシュを制裁対象に指定

トルネードキャッシュとは、イーサリアムブロックチェーンを基盤に開発されているミキシングサービスです。ミキシングサービスは、複数の送金を混ぜ合わせて、仮想通貨の出所を分かりにくくするサービスのことです。

ミキシングサービスを利用すれば、送金する仮想通貨を集約して再分配することで、入出金の紐付けを断ちながらの取引が可能です。例えば、ミキシングサービスを通じて1ETHを送金すると、受取側は他のユーザーが送金した同額分のイーサリアムをランダムに受け取ることになります。

ミキシングサービスの説明画像

2022年8月、米OFAC(財務省外国資産管理室)は、トルネードキャッシュを制裁対象者リストに加えました。当局は関連するウォレットをブラックリストに入れて、資金を凍結する措置を取り、実質的にトルネードキャッシュを利用禁止にしています。

イーサリアムがプライバシー性能を強化していけば、いずれ各国規制当局との間に軋轢を生む可能性があります。

ステルスアドレスの導入で広がる可能性

現在、イーサリアムは主にDeFi(分散型金融)やブロックチェーンゲーム、DApps(分散型アプリケーション)のプラットフォームとして利用されています。

Web3.0の流行もあり、このトレンドは加速していくと予想されています。イーサリアムがステルスアドレスを導入すれば、その利用例が拡大していく可能性があります。

point Web3.0とは

Web3.0とは分権化された次世代のインターネット環境を指します。現代の中央集権型インターネット環境(Web2.0)は、大手IT企業が強い影響力を持っています。その一方、Web3.0では個々のユーザーが重要な役割を担います。

例えば、ブロックチェーンを用いた店頭決済システムなどは、ステルスアドレスの導入で利用しやすい環境が整うと考えられます。対面での決済は個人情報とウォレットアドレスが結び付くリスクが高いですが、ステルスアドレスはその問題を解決することが可能です。

また、企業によるブロックチェーン利用も活発になる可能性があります。ステルスアドレスによってプライバシーを保護すれば、企業間の仮想通貨(暗号資産)決済やDAppsなどにも利用しやすくなります。

法的な問題が課題か

仮想通貨(暗号資産)取引のプライバシーは、今後、政府が規制を検討する分野だと考えられます。各国政府がプライバシーコインを排除している状況を見ると、このままイーサリアムがプライバシー性能の強化を続ければ、いずれは法的な問題に直面する可能性があります。

ただでさえ、イーサリアムは米SEC(証券取引委員会)が証券に該当すると法廷で言及するなど、法的な問題が燻っている状況です。開発者コミュニティも、その影響を考慮せざるを得ないでしょう。

ステルスアドレスは、イーサリアムが抱えるいくつかの問題を解消する可能性がありますが、今後の規制状況によっては実装が難しい可能性も十分に考えられます。

出典元:

  1. An incomplete guide to stealth addresses

    https://vitalik.ca/general/2023/01/20/stealth.html

Date

作成日

2023.04.06

Update

最終更新

2023.09.05

Zero(ゼロ)

米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
投資のヒントになり得る国内外の最新動向をお届けします。

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