作成日
:2022.09.01
2023.03.16 15:30
仮想通貨(暗号資産)市場では、DApp(分散型アプリケーション)の開発が活発です。開発が高度化するにつれて、各ブロックチェーン上で強力なインフラが必要になってきています。そして、Orbs(ORBS)は、DApp向けのインフラ機能を提供するブロックチェーンです。
当記事では、Orbsの概要や特徴、サービス、将来性などを解説します。
Orbsは、2019年にイスラエルの企業によって立ち上げられたパブリックブロックチェーンです。DAppを支援する分散型のインフラとして、開発が進められています。また、企業のブロックチェーン活用促進を目的としており、DAppを稼働するために必要なサポートを提供しています。
Web3.0とは、分権化された次世代のインターネット環境を指します。現代の中央集権型インターネット環境(Web2.0)は、大手IT企業が強い影響力を持っています。その一方、Web3.0では個々のユーザーが重要な役割を担います。
通常のアプリ開発では、土台となるサーバやストレージ、開発環境などを構築する必要があります。DApp開発でも、それは変わりません。
Orbsは、このようなバックエンドシステムをブロックチェーン上のサービスとして提供することで、企業や開発者を支援します。
ちなみに、必要なインフラをパッケージとして提供するサービスを、IaaS(Infurastracture as a Service)と呼びます。既存のIT業界では、Amazon(アマゾン)のAWS(Amazon Web Service)などがそれに該当します。Orbsは、ブロックチェーン業界のIaaSとなることを目指しています。
Orbsは、イーサリアム(ETH)を中心としたエコシステムにサービスを統合しています。技術的な特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
通常のアプリと異なり、DAppはスマートコントラクトを必要とします。Orbsは、スマートコントラクトを強化する機能を有しています。
スマートコントラクトとは、ブロックチェーンを利用した契約の自動履行プログラムを指します。「特定の条件」と「条件が満たされた場合の行動」を記載しておけば、条件が満たされた際にプログラムが自動で実行されます。自動販売機で例えると、「利用者が必要なお金を投入する」、「特定の飲料のボタンを押す」という二つの契約条件が満たされた場合に、自動的に「その飲料を利用者に提供する」という契約が実行されます。
業界では、土台となるブロックチェーン層をレイヤー1、スケーラビリティを強化するブロックチェーンをレイヤー2などと呼ぶことがあります。Orbsは、レイヤー2とその上にあるアプリケーション層の間であるレイヤー3に位置し、スマートコントラクトを強化するための機能を提供します。
OrbsのDAppは、それぞれ独立したバーチャルチェーン上に構築されています。バーチャルチェーンとは、仮想的なブロックチェーンで、DApp毎に割り当てられます。
このため、ユーザーとなる企業や開発者は、まるで隔離されたかのような環境の中でDAppを運用することが可能です。バーチャルチェーンで独立性を担保することで、DApp同士が干渉し合うリスクを排除できます。
Orbsは、コンセンサスアルゴリズム(ブロックを生成するルール)として、独自技術のHelixを採用しています。Helixは、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)の派生系であるRPoS(ランダマイズド・プルーフ・オブ・ステーク)を基礎としています。
Helixは、効率的で公平な方法でブロックを検証して承認します。通常のPoSと比較して、ブロック毎にバリデータがランダムな形で選出されることが特徴的です。そして、多数のバリデータの中からコミッティ(委員会)方式で選ばれたメンバーが、ブロックを検証・承認します。
PoSでは、バリデータが結託してしまえば、不正を働くことも可能です。しかし、RPoSを基礎とするHelixであれば、どのノード(ネットワーク参加者)がバリデータに選定されるか分からないのに加え、ネットワークを監視する「ガーディアン」が存在するので、結託して不正を働くことが難しくなります。
パブリックチェーンはスケーラビリティ問題を抱えることがあり、手数料の高騰に悩まされることもあります。
スケーラビリティ問題は、ブロックチェーンの処理能力に起因する障害です。ブロックチェーンにトランザクションが集中すると、取引の遅延や手数料の高騰などが発生します。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などのブロックチェーンは、慢性的にスケーラビリティ問題に悩まされています。
Orbsは、DApp別にバーチャルチェーンで切り分けて、必要な分だけネットワークのリソースを割り当てています。これにより、手数料を最適化すると同時に、安定します。この考えは、従量課金型のクラウドサービスによく似ています。
例えば、Apple(アップル)社が提供するiCloudは、月額課金と引き換えに、プラン別に特定の大きさのストレージスペースを割り当てます。より大きなストレージスペースが必要となれば、プランをアップグレードすることも可能なので、リソースとコストのバランスを取ることができます。
このような仕組みから、Orbsを利用するDAppは、突発的な手数料の高騰などに悩まされることがありません。
Orbsは、2つのサービスを提供しています。「ORBS Lambds」と「ORBS VM」です。これらは、AWSのサービスに対抗する機能を提供しています。
ORBS Lambdsは、AWS Lambdaと同じく、クラウド機能を提供します。ブロックチェーン固有の知識がなくとも、JavaScriptを使って、クラウド上のコンピュータプログラムを実行可能です。
クラウドは、インターネットなどのネットワークを介して、コンピュータリソースをサービスとして提供する技術です。クラウドを利用すれば、コンピュータを物理的に所有せずとも、必要な時に必要な規模でリソースを活用することができます。
ORBS VMは、AWS EC2に対応するサービスです。
ORBS VMを利用すれば、既存のIT業界で主流となっているJavaScriptやGo、C++、Pythonなどの複数のプログラミング言語で、スマートコントラクトを構築できるようになります。
加えて、ライブラリ(汎用性の高いプログラムをまとめて再利用可能な形にしたもの)を呼び出して使うことができます。これらにより、より複雑なプログラムを簡単に組むことができます。
ORBSは、ERC-20規格で発行されています。Gate.ioやFTXなど中央集権型の取引所や、PancakeSwapやTraderJoeなどのDEX(分散型取引所)で取り扱われています。
2018年、ICO(イニシャルコインオファリング)を通じて販売されました。当時のICO価格は、日本円で10円程度です。その後、各種取引所に上場し、時価総額は150億円規模となっています。仮想通貨市場全体では、200位圏内に位置しています。
下のチャートを見ますと、2019年から2021年初頭にかけて、長期間低迷していたことが分かります。トークンセール時の価格を下回り、1円を割ることもありました。しかし2021年4月に高騰し、30円超えを記録しています。
画像引用:CoinMarketCap
その後、一気に5円前後にまで下落しました。安値圏から反発もあったものの、右肩下がりとなっています。当記事執筆時点(2022年8月)で、小刻みな値動きを続けています。
仮想通貨市場では、DApp開発が盛り上がりを見せています。これに伴って、今後は重要なインフラとしてOrbsの需要も高まっていくと考えられ、現時点では以下のような動きが見られます。
Orbsは、EVM(イーサリアム仮想マシン)を実装するブロックチェーンに適応可能です。現時点では、イーサリアムに加え、BNBチェーン(BNB)やポリゴン(MATIC)などで利用可能です。
EVMは、イーサリアム(ETH)ブロックチェーンとの互換性を高める技術です。EVMを実装すれば、イーサリアムを基礎とする異なる規格の仮想通貨取引や、Dappの移植などがより簡単になります。
これにより、UniSwap(UNI)やSushiSwap(SUSHI)など主要なDeFiプロトコルとの統合を実現しています。今後もマルチチェーン対応を進め、レイヤー1やレイヤー2のブロックチェーンに適応していく見込みです。
マルチチェーン化が進むとエコシステムが拡大するので、ORBS価格にとっても好影響でしょう。
Orbsのウェブサイトは、英語の他に日本語や韓国語に対応しており、グローバル市場に向けて事業を展開しています。当記事執筆時点で、Ground Xと提携し、コード開発やセキュリティ面など技術協力を提供している模様です。Ground Xは、韓国のカカオ社傘下のブロックチェーン部門として設立された会社です。
その他、ブロックチェーンを利用した決済サービスのpumapayや、人工知能(AI)を用いた未来予測プラットフォームのEndorなどと提携しています。
加えて、米国ではトランプ政権時に政府と提携し、イスラエルとパレスチナの問題解決に向けてソリューションの構築に貢献しています。
Orbsは、継続的にパートナーシップを拡大していく方針です。
Moonstakeはウォレットサービスであり、アジア最大のステーキングネットワーク構築を目指しています。その規模は、世界上位10位以内に入るほどです。
2022年7月、MoonstakeはORBSのステーキングへの対応を発表しました。ORBSを預け入れれば、年利数%の金利収入を稼ぐことができます。大手ステーキングネットワークに対応したことで、より多くのユーザーがORBSを長期保有し、ステーキングを利用するようになると考えられます。
ORBSは、日本国内の取引所で取り扱いはありません。そのためBinance(バイナンス)やBybit(バイビット)などの海外取引所で取引することになります。
日本語対応の海外取引所でのORBSの取り扱い状況(USDT建て現物・デリバティブ)は、下記の通りです。
取引所 | 現物 | デリバティブ |
Binance(バイナンス) | × | × |
Bybit(バイビット) | × | × |
Gate.io(ゲート) | 〇 | × |
CoinEX(コインイーエックス) | × | × |
MEXC(メクシー) | × | × |
BingX(ビンエックス) | 〇 | × |
Bitget(ビットゲット) | × | × |
Binance(バイナンス)
現物 | デリバティブ |
× | × |
Bybit(バイビット)
現物 | デリバティブ |
× | × |
Gate.io(ゲート)
現物 | デリバティブ |
〇 | × |
CoinEX(コインイーエックス)
現物 | デリバティブ |
× | × |
MEXC(メクシー)
現物 | デリバティブ |
× | × |
BingX(ビンエックス)
現物 | デリバティブ |
〇 | × |
Bitget(ビットゲット)
現物 | デリバティブ |
× | × |
仮想通貨市場では、DeFi分野を中心にDAppの利用が進んでいます。しかし、一般社会にはまだ浸透しておらず、既存の中央集権型のアプリが主流となっています。
DAppはトークンエコノミー(仮想通貨を中心とした経済)を取り込めることや、強固なセキュリティを実現できるなど、多くのメリットがあります。一方、普及しない背景としては、開発者が少なかったり、開発環境に難があったり、様々な問題が存在していると予想できます。
Orbsはその解決策のひとつとして、ソリューションを開発しています。まずはイーサリアムを中心としたエコシステムでサービスを提供していますが、これがDApp開発の加速につながることを期待したいです。
作成日
:2022.09.01
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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