作成日
:2021.11.05
2022.04.20 12:08
ステーブルコインとして最も知名度のあるテザー(USDT)を発行するテザー社が、準備金(担保)情報を偽っていたとして米商品先物取引委員会(CFTC)に告訴された問題で、4,100万ドルの罰金支払いで当局と和解していたことが明らかになりました。
支払い命令は2021年10月15日に出されました。これまでテザー社は、テザーは法定通貨に100%裏付けられていると主張してきましたが、実は2016年から2019年までの多くの期間で、準備金口座に十分な現金が入金されていませんでした。現在、テザー社は監査を強化して運用体制の確立に向かっていますが、他のステーブルコインと比較して信頼性に疑問が持たれる場合もあります。
しかし、多くの仮想通貨取引所で各種の取引のベースとなる仮想通貨として使われており、テザーを使わずに海外取引所を利用するのは難しいという現状もあります。この記事では、テザーが抱える問題や他のステーブルコインについて解説します。
ステーブルコインとは、対象となる資産価格に連動する仮想通貨を指します。例えば、テザーはドル価格に連動しますので、多少の変動はありますが概ね1テザー=1ドルとなります。
仮想通貨といえば大きな価格変動が特徴なのに、なぜテザーはドルと価格が等しくなるのでしょうか。その理由は、発行主体であるテザー社が発行済みのテザーと同額以上のドルを保管しており、テザー保有者の求めに応じていつでも1テザー=1ドルで換金できる仕組みを採用しているからです。
これを理解するために、仮にテザーが暴落する事態が起きるとしましょう。すると、保有者はテザー社に対して1テザー=1ドルで換金するよう要請すれば、実勢価格に関係なくドルと交換できます。ということは、暴落したテザーを買ってテザー社に換金要請すれば簡単に儲かりますから、誰もテザーを売り込もうとせず、テザー価格は1ドル付近で安定します。
逆に、テザーが暴騰しそうな場合、テザー社は「1テザーは1ドルである」と広報していますし、手元のテザーを売却することで価格を1ドル付近に誘導することもできます。すなわち、市場参加者はテザーを買い込んで価格上昇を期待することがなくなります。
ステーブルコインの準備金(担保)がなぜ問題になるかというと、発行会社が固定のレートで別の資産と交換してくれることが保証されているからこそ、ステーブルコインの価格が安定するからです。
ここで、仮にステーブルコインの発行会社が「実は準備金が不足していました」と発表したとしましょう。すると、ステーブルコインをドルに換金しようとしても、準備金不足で換金できないかもしれず、通貨安定の仕組みが機能しなくなる可能性があります。すると、保有者は損したくありませんから、我先にとステーブルコインをドルに換金しようとする動きが広まり、価格は暴落する可能性があります。
ステーブルコインは法定通貨と価値が連動するものが多いですが、その他にも、実物資産(金など)の価格に連動するものや、法定通貨価格に連動するものの準備金不要でアルゴリズムを駆使するものがあります。
ステーブルコインの準備金(担保)の信頼性が疑われると、そのステーブルコインの暴落リスクにつながります。ただ、米商品先物取引委員会(CFTC)からテザー社が告訴された後、そして今回CFTCから罰金支払いが命じられた後も、テザーの価格は安定しています。1ドルがきっちり1テザーとはならず、時期によって若干上下しますが、概ね1テザーが0.999~1.001ドルの範囲に収まっています。
今回の罰金支払いでは、「100%法定通貨の裏付けがある」と主張していたことが、少なくとも2019年2月25日から2016年6月1日までの期間に虚偽であったことが認定されましたが、今現在の準備金の問題ではないため、大きな問題とはならなかったようです。
テザー社も罰金支払い命令を受けて声明を発表しており、準備金の問題は2019年2月の利用規約改定によって完全に解決されたと主張しています。
また、罰金支払い命令の中で指摘されたのは、「準備金を現金で保有していなかったこと、およびテザー名義の銀行口座に保有していなかったこと」であるとも主張しています。今回のCFTCからの罰金支払い命令は大きな影響を与えませんでしたが、テザーは長らく準備金(担保)に疑問が持たれていたステーブルコインです。現在は、テザー発行額よりもテザー社の保有資産の方が大きいことは明確にされていますが、保有資産の中に法定通貨などの安定した資産以外が含まれることも問題視されています。
しかし、Binance(バイナンス)やBybit(バイビット)などの海外取引所を使う場合、一切テザーを使わないと取引に支障が出ることもあります。
仮想通貨をUSDTで購入する仕組みになっている取引所が多く、そのような取引所では、ある仮想通貨を売却して別の仮想通貨を購入する場合は、一旦USDTに換金して仮想通貨を購入する形になります。例えば、ビットコイン(BTC)をエイダコイン(ADA)に交換する場合、ビットコインをUSDTに交換した後、USDTでエイダコインを購入します。
このように、USDTを介した取引が盛んに行われているため、テザーを避けて仮想通貨取引をすることが難しくなっているという状況でもあります。
もし全くテザーを使いたくない場合は、Binanceであれば、Binance独自のステーブルコインであるBUSDをテザーの代替として利用するという選択肢があります。
現状米ドルと連動するステーブルコインとしてはテザーが最も利用されていますが、他にも米ドル連動型のステーブルコインはいくつかあります。
多くの仮想通貨取引所でテザーが採用されているため使い勝手は悪いですが、準備金(担保)の信頼性の面ではテザーよりも高く評価されているものもあります。そこで、時価総額が上位の3つのステーブルコインについて、主に分散型金融(DeFi)分野で活動している監査会社「RugDoc」の評価を中心に信頼性を比較します。
監査会社RugDocの評価は5点満点中3.8点で、今回の3つの中で最低点を記録しています。その理由として、今回のCFTCとの訴訟問題が挙げられています。「スキャンダルにもかかわらず、市場では最も優れたステーブルコインと見なされている」という評価をされていますが、多くの取引所で採用されている現状を踏まえたものでしょう。
準備金に関しては、テザー発行額よりも保有資産の方が大きいことは、監査会社によって確認されています。しかし、保有資産の内訳は公表されておらず、値動きの変動が激しいリスク資産も含まれている可能性があります。このため、準備金を100%米ドルの現金で保有しているUSDコインと比較すると、信頼性については低い評価をされる場合が多いです。
USDコインは、アメリカの仮想通貨取引所Coinbaseと決済サービスを展開しているCircle社によって開発・運用されています。
RugDocの評価は5点満点中4.5点で、テザーよりも高く、BUSDと並んで最高点となっています。その理由として、USDコインはテザーと比較して厳格な監査を受けていること、それを受けて投資家から信頼性に関する疑惑が生じていないことを挙げています。
USDコインのサイトで公開されている監査済み報告書では、保有資産の内訳が現金(ドル)が100%となっています。ドルとUSDコインの確実な交換が保証されると認識されていることで、「テザーに代わるスタンダードなステーブルコインになるのでは」との見方も出ています。
バイナンスUSD(BUSD)はアメリカの会社Paxosが開発・運用しているステーブルコインで、その名前の通りBinance(バイナンス)で売買でき、バイナンススマートチェーン(BSC)やイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で利用できます。
RugDocの評価は5点満点中4.5点であり、USDコインと並んで最高得点ですが、他のステーブルコインよりも安定性に優れていると評価しており、事実上の最高評価を受けています。
発行会社であるPaxosのホームページで毎月の監査報告書が公開されており、USDコインのような詳細な内訳はありませんが、準備金は現金と現金同等物(米国債など)で構成されています。リスク資産が含まれないことで安全性に関する評価は高いですが、Binance(バイナンス)以外では利用できる場所が限られているのがデメリットです。
テザーは長期にわたって信頼性に疑問を持たれてきた仮想通貨ですが、現状多くの仮想通貨取引所で取引の基本となる通貨として採用されています。
特定の取引所と結びついたBUSDなどと比べて利用できるシーンが多く、送金手数料も安いというメリットがあるため、テザーを主軸とした体制は今後もしばらくは変化しないと予想されます。
USDコインなど他のステーブルコインも時価総額を伸ばしているので、長期的には主軸となる仮想通貨が交代する可能性はありますが、それまでは、テザーの利用に不安を感じるのなら他の仮想通貨で資産を保有するなどの対策を講じる必要があるでしょう。
テザー社も徐々に体制を改善しているため、より安心して利用できるステーブルコインに進化できるかどうかに注目が集まります。
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作成日
:2021.11.05
最終更新
:2022.04.20
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