作成日
:2021.10.13
2022.04.20 12:18
2021年9月24日、中国の中央銀行である中国人民銀行を含む複数の規制当局が、仮想通貨(暗号資産)の取引やマイニング(ブロックチェーン上で報酬と引き換えにブロックを生成する行為)を全面的に禁止すると通達しました。
この発表を受け、SNSでは中国の規制強化を悲観するツイートが大量に投稿されています。また、世界最大のマイニング拠点となっている中国が仮想通貨を禁止したことから、これがビットコイン(BTC)を始めとするブロックチェーンの不安定性につながると危惧する声も上がっている状況です。
今回はそんな中国における仮想通貨規制の流れや現状についてまとめて説明し、仮想通貨関連企業の対応や仮想通貨市場への影響などを解説していきます。
中国政府は仮想通貨が国民の安全や金融システムの安全を脅かすと考え、これまで一貫して仮想通貨規制を厳格化する方針を示してきました。今回、中国政府は包括的な仮想通貨規制を導入することとなりましたが、それはどのようなものなのでしょうか。ここでは、中国の仮想通貨規制の流れと併せて、具体的な規制内容などを説明していきます。
2013年、中国政府はビットコインがマネーロンダリング(犯罪組織などが資金の出所をわからなくする手段)に利用される可能性があることを理由に、仮想通貨取引の禁止に踏み切りました。これを皮切りに、中国政府は2017年にICO(新規通貨公開)を禁止したのに加え、2019年にマイニング事業者の締め出しに着手しています。
ICOとはブロックチェーンプロジェクトが仮想通貨(トークン)を新規発行・販売することにより、開発活動に必要な資金調達を行うための仕組みです。過去には様々なプロジェクトがICOを用いて資金調達を行なっていましたが、資金を持ち逃げする出口詐欺などが横行したことから、IEO(新規取引所公開)などICO以外の資金調達が生まれました。
中国政府は、かねてからマイニング事業者の電力消費を問題視しており、今年に入ってからマイニング規制を本格化させています。それだけに留まらず、中国政府は海外取引所を含めて仮想通貨関連サービスの取り締まりを強化し始めている状況です。
今回、中国では中国人民銀行や最高人民法院、警察、各方面の監督機関などが法的に仮想通貨を禁止することを正式に通達しました。
これにより中国内では仮想通貨関連サービスを提供または宣伝、運用、利用することなどが違法となり、法律に反した者には刑事罰が与えられることになりました。従来、中国内の仮想通貨ユーザーは、抜け穴的に海外取引所を利用して仮想通貨取引を行なっていましたが、この規制強化によってそれも違法行為となりました。
加えて、中国政府は近年の取り組みを改めて強調する形で、マイニングを根絶するとの強い姿勢を示しています。投資家に直接的な被害が及ぶわけではありませんが、中国がマイニング事業者を排除することは、仮想通貨市場の潜在的なリスクになり得るといえるでしょう。
中国人民銀行は2022年までにCBDC(中央銀行発行の独自デジタル通貨)であるデジタル人民元を実現することを目標に掲げています。デジタル人民元は法定通貨の人民元と同等の価値を持ち、通常の仮想通貨と同じく、ウォレットを通じた決済利用が可能なことから、次世代の決済インフラとなることが期待されています。
デジタル人民元を発行するにあたって、中国政府はそれ以外の仮想通貨を排除しようと段階的に規制を強化してきました。既に中国ではステーブルコイン(法定通貨を裏付けとした安定的な仮想通貨)を含む独自仮想通貨を発行することなども禁止されていますが、今回の規制でデジタル人民元の導入にまた一歩近付いたと考えられます。
CBDCとは国家の中央銀行が発行する独自デジタル通貨を指します。世界各国の中央銀行はCBDCの発行に向けて動き出しており、中国のデジタル人民元の他にも、米国のデジタルドル、欧州連合加盟国のデジタルユーロ、日本のデジタル円などの開発調査が進められています。
中国政府が仮想通貨に対する態度を硬化させたことから、仮想通貨関連企業が中国市場からの撤退を決めています。既に複数の取引所やマイニング事業者は声明を出しているので、その中から主要な例をいくつか紹介していきます。
規制強化に対応する形で、大手取引所が中国市場から手を引くことを決定しています。例えば、Huobi(フォビ)は新規ユーザーの登録を停止しており、既存ユーザーに関しても2021年末までに全ての口座を閉鎖させると発表しました。
これに続き、大手取引所であるKuCoin(クーコイン)も同様の判断を下し、中国本土のユーザーに資金を引き上げるよう求めています。BitMart(ビットマート)やBiki(ビキ)などの取引所が中国市場から撤退すると発表したことが確認されています。
この流れは仮想通貨市場全体に波及しており、その他にもビットコインなどのマイニングは膨大な電力消費を要します。従って、マイニング事業者は利益を上げるために、安価な電力供給が必要となり、各地域に進出してきています。中国では内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区、四川省などにマイニング事業者が集中していましたが、中国政府はこれらの地域でマイニング事業者が膨大な電力を消費していることを問題として取りただしていました。
中国政府がマイニング規制をさらに強化し始めた2021年から、これらのマイニング事業者は中国市場からの撤退を余儀なくされており、カナダのIBC Groupなどの大手も国外への移転を決定しています。更にこの度、中国政府が規制を厳格化させたことを受け、イーサリアム(ETH)のマイニングプールとして世界第2位の規模を誇るSparkpoolが事業を廃止しました。
参照:マイニングプール
これに加えて、マイニング機器(マイニングに最適化されたハードウェア)メーカーのBitmainも中国での販売を停止しました。Bitmainは次の主戦場として米国市場に目をつけており、続々と主力製品のマイニング機器を同国に送り込んでいます。
アメリカ、カナダの北米地域は、巨大な発電施設や先進的な再生可能エネルギーを利用するための環境が整っていることから、新たなマイニング拠点となることが期待されています。特にアメリカには大手マイニング事業者が続々と移転してきており、国内の仮想通貨市場が盛り上がりを見せています。
中国の規制強化は業界にとって重大なイベントとなったことは明らかですが、仮想通貨市場にどのような影響を与えたのでしょうか。ここからは、規制強化に伴う仮想通貨価格の変動と今後の展開について解説していきます。
中国人民銀行の発表があった同日中に、ビットコイン価格は10%近く急落しました。その他、イーサリアム(ETH)やバイナンスコイン(BNB)、リップル(XRP)などの主要な仮想通貨もビットコインに同調して下落しました。しかし、これらの仮想通貨価格は10月に入ってから大きく反発し、再び上向きのトレンドに転じています。
ビットコイン価格に至っては、5万7,000ドル台まで上昇しており、史上最高値の6万3,000ドルが視野に入りつつあります。このビットコイン価格の値動きを見ると、中国の規制強化による仮想通貨価格への影響は、限定的なものだと判断できるかもしれません。
ちなみに中長期的にはビットコインのハッシュレート(マイニングを行うための演算速度)低下などが危ぶまれていますが、今の所、その傾向は観測されていません。
中国政府が仮想通貨を全面的に禁止したことは、今年最大級のニュースとなりましたが、本当に中国内からの仮想通貨市場へのアクセスを完全に遮断できるかに関しては疑問が残ります。現に中国の仮想通貨ユーザーは、取引所を介する従来の方法だけでなく、以前からユーザー同士が直接取引を行う分散型取引所(DEX)などを利用して仮想通貨取引を行ってきました。
これらの取引形態は中央集権型の取引所を使った取引とは異なり、運営企業の発見が困難、または、そもそも管理者が存在しないので、規制することは難しいと考えられています。このような理由から、一部のアナリストは仮想通貨ユーザーの需要が取引所を介した取引から直接的方法にシフトしていくと予想しています。
分散型取引所とはブロックチェーン上に構築された取引システムであり、契約を自動的に履行するスマートコントラクトを核に個人間の仮想通貨取引を可能にしています。分散型取引所は特定の企業や団体が管理しているわけではないので、仮想通貨禁止国でも規制できずに抜け穴的に利用されています。実際に仮想通貨取引が禁止のインドやベネズエラでも、多くの仮想通貨ユーザーが分散型取引所を利用していることが報告されています。
中国はブロックチェーン先進国として、数多くのブロジェクトに関与しています。例えば、中国版イーサリアムと呼ばれるネオ(NEO)やイオス(EOS)などがそうです。その他にも、中国はブロックチェーン技術の発展に大きく貢献してきましたが、仮想通貨規制の強化がこの流れを止めることになるかもしれません。
ブロックチェーンと仮想通貨は切っても切り離せない関係にあるので、デジタル人民元以外の仮想通貨が認められなくなると、これらのプロジェクトが滞る可能性があります。仮想通貨を発行せずにブロックチェーン開発を行うことも可能ですが、資金調達やシステムを維持する上で問題になると予想されます。
これらのブロックチェーンプロジェクトを国営化するとの話も浮上していますが、自由な開発活動ができなくなる可能性があるといえるでしょう。まだどうなるかは明らかではないものの、中国関連の仮想通貨に投資している方は注意が必要かもしれませんね。
中国政府は仮想通貨規制を厳格化していますが、これがどの程度の効力を発揮するかは明らかではありません。本質的には国民がルールを遵守するかや、法執行機関が取り締まれるのかが重要で、現段階では実際にどのような変化が訪れるのかを予見するのは難しいといえるでしょう。
今回は仮想通貨価格への影響は限定的であり、ひとまず事なきを得たので、仮想通貨に投資している方も胸を撫で下ろしたのではないでしょうか。しかし、長期的に見れば不確定要素も多いので、仮想通貨に投資する際には中国関連のリスクを頭に入れておく必要があるかもしれませんね。
出典元:
作成日
:2021.10.13
最終更新
:2022.04.20
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
投資のヒントになり得る国内外の最新動向をお届けします。
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