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スイスフランショックとは?その原因と影響

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update 2024.07.19 19:14
スイスフランショックとは?その原因と影響

update 2024.07.19 19:14

2015年1月15日、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)が金融政策を突然変更し、スイスフランが暴騰して複数のFX会社が経営破綻しました。これをスイスフランショックと呼びます。

金融政策は経済情勢とともに変化します。当時の市場参加者もこれを知っており、対策を取れたはずです。しかしなぜ、多くの人々が大損したのでしょうか。そして、これがなぜFX会社の経営破綻につながったのでしょうか。

スイス国立銀行と市場の攻防戦

スイスフランショック発生直前まで、スイス国立銀行はユーロ/スイスフラン(EUR/CHF)を1.20より下落させない方針を採用していました。為替レートの固定は、先進国の金融政策に馴染みません。しかし、当時はそうする必要がありました。その理由は順を追って解説していきます。

なお、スイスはユーロ圏諸国に囲まれていますから、スイスにとって最も重要な外貨はユーロです。すなわち、ユーロ/スイスフランが最重要な通貨ペアになります。

ギリシャ危機までの値動き

下の月足チャートは、ユーロ/スイスフランです。2007年まで、為替レートは上昇トレンドでした。この時期は世界的に好景気で、日本でも徐々に円安が進んで景気が拡大していました。

このトレンドが変わったきっかけが、2007年に米国で起きたサブプライムローン問題です。その後、問題が徐々に大きくなり、2008年にはリーマンショックが発生しました。こうして、米国主導で世界的な不景気になりました。

point サブプライムローン問題

サブプライムローン問題とは、不景気到来による不動産価格下落を受けて、サブプライムローンが不良債権化した問題を指します。サブプライムローンは信用力が劣る債務で構成されており、価格下落に対する耐性が弱く、投資家による損失確定の売りが相次いで価格が下落しました。

EURCHFの月足チャート

画像引用:MT5

こうしてヨーロッパにも不景気が押し寄せ、不安が高まっていたところに、2009年にギリシャでスキャンダルが発生しました。ユーロに加盟するには国家財政で満たすべき基準がありますが、ギリシャは粉飾決算でユーロに加盟したことが明らかになりました。

国家による粉飾決算。これはユーロの信用を失わせるのに十分な理由となり、ユーロが売り込まれました。この事態で人々が資金の逃避先に選んだのは、スイスフランです。スイスは先進国の中でも財政状況が良く、しかもユーロ圏のすぐ隣に位置していて便利だったからです。

人々は、ユーロを売ってスイスフランを買いました。こうしてユーロ/スイスフランは下落を続け、1.00を割り込む直前の水準になりました。

1.20の防衛ライン設定

自国通貨が急激に強くなると、国内産業が衰退して失業者が増える可能性があります。そこで2011年9月、スイス国立銀行は、ユーロ/スイスフランを1.20よりも下落させないという政策を採用しました。また、これを実現するために、無制限の市場介入を実施することにしました。

これら一連の出来事による値動きは、下の週足チャートの通りです。チャート左側でユーロ/スイスフランが暴落を続け、それに対してスイス国立銀行が政策を発動。結果、為替レートが1.20付近で張り付きました。スイス国立銀行の買いと市場の売りの戦いです。

スイス国立銀行はこの戦いに勝利するため、プレスリリースを繰り返し公開し、「1.20の為替レートを最大限の決意を持って防衛し、無制限に市場介入を実施する」としました。

EURCHFの週足チャート

画像引用:MT5

市場参加者の行動

この状況を受けた市場参加者の行動は、大きく分けて3つに分けられます。1つは、スイスフランを取引しない、すなわち、異常事態が起きている通貨ペアには触らないという方針です。2つ目は、ユーロ/スイスフランを売る行動です。ユーロ崩壊が現実味を持って語られていた時期ですので、ユーロを手放したい人が大勢いました。

そして3つ目が、ユーロ/スイスフランを買うという選択です。買う行動には合理的な理由がありました。

為替レートは1.20付近で張り付き、細かく上下動していました。このため、1.20付近まで下がったら買って少し上昇したときに決済すれば、繰り返し利食い可能でした。また、スイス国立銀行の防衛が成功すれば、為替レートは大きく上昇する可能性もありました。さらにスイス国立銀行は、1.20を最大限の決意を持って防衛すると繰り返し強調していました。買った人は、スイス国立銀行の発言に賭けたということになります。

スイス国立銀行の敗北

しかし、スイス国立銀行は市場の圧力に負けました。無制限にスイスフランを売ることができなくなり、2015年1月15日、プレスリリースを公開して1.20の防衛ラインの即時撤廃を採用しました。

これを受けて、市場は文字通りはしごを外された状態となり、為替レートは暴落しました。

knowledge 先進国の中央銀行が市場に負けた例

先進国の中央銀行が市場の勢いに負けた例は、もう一つあります。1992年、ジョージ・ソロスらがポンドを売り浴びせ、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)の防戦を破ってポンドを安値に陥れることに成功しました。これをポンド危機と呼びます。

スイスフランショックの影響

ユーロ/スイスフランの金融政策がいきなり撤廃されたことにより、市場は大混乱に陥りました。そして、多額の損失を計上した人や法人が続出しました。

投資家の巨額損失計上

下は、スイスフランショックを含む日足チャートです。暴落部分を見ますと、巨大な窓ができている様子が分かります。この窓は、為替レートが存在しなかったことを示します。すなわち、市場から文字通り為替レートが消えてしまい、FX会社は為替レートを配信できなかったことを示します。

EURCHFの日足チャート

画像引用:MT5

さらに、為替レートが配信されなかったので、ユーロ/スイスフランを買っていた投資家は希望の為替レートで損切りできませんでした。損切り注文が約定したのは、為替レートの配信が再開した後、すなわちユーロ/スイスフラン=0.8~0.9あたりです。わずかな時間で、3,000pipsから4,000pipsの損失を計上してしまいました。

2007年以降の一連の流れを示したのが、下の月足チャートです。月足チャートでもはっきり分かる窓ですから、いかに巨大な混乱だったのかが分かります。

EURCHFの月足チャート

画像引用:MT5

日本の投資家もスイスフランショックに無関係ではなく、損失を計上しました。日本においてスイスフランはマイナー通貨ですから、取引していた人数も金額も限定的です。しかし、下の表の通り、投資家がFX会社に対して負った借金は、合計33億8,800万円にもなります。

種別 発生件数(件) 発生金額(円)
個人 1,137 19億4,800万円
法人 92 14億4,000万円
合計 1,229 33億8,800万円

発生件数(件)

個人 1,137
法人 92
合計 1,229

発生金額(円)

個人 19億4,800万円
法人 14億4,000万円
合計 33億8,800万円

データ引用元:金融先物取引業協会

ちなみに、この金額は投資家の損失額ではありません。投資家は、FX会社に証拠金を入金して取引します。その証拠金全額を失ったうえ、さらにFX会社に対して34億円近い借金を背負いました。一人当たり270万円以上の借金です。

FX会社の経営破綻

ヨーロッパ等では、日本と比べて多くの人々がスイスフランを取引しています。すなわち、投資家はFX会社に対して多額の借金を負うことになりました。そしてFX会社は顧客から借金を回収しますが、回収できるまでの間は自社で損失を穴埋めしなければなりません。

また、ゼロカットシステムを採用していた場合は顧客の借金にならず、FX会社が全ての損失を負担しました。

この結果、損失負担に耐えられなかったFX会社は、経営破綻に追い込まれました。

point ゼロカットシステム

ゼロカットシステムとは、FX取引で証拠金以上の損失を計上しても、追加証拠金を入金する必要がない制度を指します。証拠金額を超える損失額は、FX会社が負担します。

こうしてヨーロッパでは、当時有名なFX会社だったアルパリが経営破綻し、その他のFX会社も経営破綻に追い込まれました。日本ではアルパリジャパンが経営破綻、そしてFXCMジャパンが楽天証券に吸収合併されました。

歴史は繰り返す

FXは余裕資金で取引し、適切に資金管理する必要があります。しかし、スイスフランショックでは逆指値注文などのリスク管理が適切に機能せず、多数の人々が多額の損失を計上してしまいました。

この事態を警戒しすぎると、FX取引が全くできなくなります。しかし、この種のショックに対して対策をとることは可能です。具体的には、ポンド危機でイングランド銀行が市場に負けた経緯を知っていれば、スイス国立銀行も負けるかもしれないと警戒することができました。

金融市場の過去の大きなイベントについては、その概要を把握しておくだけでも、将来のリスク管理に役立ちます。


Date

作成日

2022.10.03

Update

最終更新

2024.07.19

山本鉄壁 | Teppeki Yamamoto

現役トレーダー兼仮想通貨ライター

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山本鉄壁

FXと仮想通貨をメインとし、投資歴は20年を超える。トレードで独立後に別のペンネームで書籍を出版したり投資雑誌に寄稿したりするなど活躍中で、主に英語メディアで日々最新情報をチェックしている。

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